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木陰に入ると、エルディアは適当な場所を見繕ってシートを広げる。
そして、ドラコニスに括り付けた荷袋から、ひょいひょいと必要なものを取り出すと、目の前に並べてラスティに座るように促した。
「これで良し。はい、どうぞ」
「準備がいいな?」
「ジャンポネイルから出ることは分かってたからね。昨日の夜、部屋に帰る前に宿で頼んでおいたの」
ラスティはシートに腰を下ろして、並べられた昼食に目をやった。
野菜やベーコンが入っているパンやチーズ。簡単なスープまである。
改めてエルディアの根回しのよさに感心した。
(いつ頼んだのか、全く分からねぇな……)
べしっ!!
まじまじとエルディアを見つめていると、視線を遮るように手のひらで顔を押さえられた。
痛くはないが急なことに思わず目を瞬く。
「……? なにすんだ、おまえは」
「いや、別になんでもないけど……!」
顔面に押し当てられた手を引き離して、ラスティが不満げに目を向けると、エルディアがふいっと視線をそらした。
エルディアにしては珍しいことである。
ラスティは少し間を置いたが、すぐにその理由に見当がつき唇を引き上げた。
エルディア自身も戸惑っているようだが、昨日の「アレ」はそれなりに効果があったのだろう。
「……へぇ?」
小さく呟いてラスティがわざとらしく小首をかしげてみせる。
エルディアの肩がピクリと揺れた。
「さては、おまえ。やっと俺が19歳だって理解したんだろ?」
「ち、ちがうわよ! 初めから分かってたことだし! 別に今さらどうってことないし!!」
「うそつけ」
エルディアは全力で否定するが、普段の態度と違いすぎるせいで説得力がまるでない。
挙動不審なエルディアにラスティがにじり寄り、すとんとそのすぐ横に腰を下ろした。ぴたりとくっつくと、覗き込むように下から見上げる。
「っ!!!!」
あまりの近さにエルディアは瞬発力のみで、バネのようにのけぞった。
「ははは!! 意識しすぎだろ」
ラスティが思わずゲラゲラと笑い転げた。これまで、なにがあっても子ども扱いをやめなかったエルディアの変化に、どこか浮かれた気分になる。
エルディアは憎たらしそうにラスティを睨み付けると、少し赤くなった顔で怒鳴り付ける。
「うるさいな!! 大体ねぇ、あんなに急にでかくなったら普通は戸惑うものなの!!」
「俺に怒ったって仕方ないだろ? 俺だって想定外なんだから」
「分かってるわよ!」
ラスティが悪くないことなんて分かっている。ラスティはずっと、ちゃんと線を引こうとしていた。
(分かってるけど、どんな顔したら良いのよ!!)
朝は小さくなったラスティを見てほっとしたものの、ふとした瞬間にいままでの距離感が掴めなくなる。とにかくざわざわと落ち着かないのだ。
エルディアのそんな余裕のない様子に笑いが収まらないラスティは、目元を指でぬぐいながら息を整える。
「だから、後悔するって言ったじゃねぇか」
「そんな前のこと、忘れたわよ!!」
皮肉っぽく笑うラスティは、慣れ親しんだかわいい少年のままなのに、どうしてもその向こうに昨日の色男が重なってしまう。
ラスティは一通り笑い終えるとエルディアに肩をすくめて見せた。
「しばらくはこのままだろうし、おまえもあんまり気にするなよ。いままで通りでいいよ」
「……その、いままで通りが分かんないから困ってんだけど」
簡単に言ってくれるなと、エルディアが唇を尖らせると、ラスティはひょいと片眉をあげた。
「俺はかわいいおまえの妹のラスちゃんだろ? 俺は慣れたんだから、おまえも慣れろ」
言外におまえが決めた設定だと含ませてエルディアに言い放つ。そのラスティの目は、いたずらが成功した子どものようだった。
それに気がついていても、エルディアには反撃する手だてが思い浮かばなかった。せいぜい、悔し紛れに悪態をつくことしかできない。
「なんて、かわいくないの!!」
「そうそう。その調子だ」
エルディアの負け惜しみのような叫び声に、ラスティは満足そうに頷いたのだった。




