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本日から6章です。よろしくお願いします。
長らく世話になった宿でチェックアウトを済ませると、エルディアとラスティは駐車場に向かった。
エルディアはドラコニスのシートに大事そうに触れるとうっとりと目を細める。
「やっぱり、あんたはこっちの方が男前だわ」
ラスティがジーンの温泉に通っている間、ハワード研究室に通っていたエルディアだったが、さらにその合間を縫ってドラコニスのカスタマイズも終わらせていた。
イブルグラム山脈を移動するために山道仕様になっていた魔導二輪は、その役目を終えて元のスタイルに戻っている。
「『ドラコニス・マークⅡ・改』だったよな? 今度は何になるんだ、こいつ?」
「決まってるでしょ。『ドラコニス・マークⅡ ver1.0.2』よ!」
「……いや、分からねぇよ」
どうやら「改」は外れてドラコニス・マークⅡのバージョンアップになるらしい。
聞いておいてなんだが、心底どうでもいい。
ラスティは面倒くさそうに手を振って話を打ち切る。
(ブルックのパーツ屋の色は消えたから、まあいいか)
ドラコニスの新装を眺めて、ラスティはそれだけ確認して小さく頷いた。
この件に関して、恐ろしく心が狭くなっていることはいい加減に自覚した。だが、わざわざそれを表に出す必要もないので、あえて興味のない顔を続けた。
エルディアは無関心そうなラスティに唇を尖らせながら、ドラコニスにまたがる。
ラスティもそれに続き、後部座席にぐっと飛び乗った。
エルディアの視界の端で、例の花売りが今朝も花を売っている。
エルディアがラスティを振り返ると、ラスティは「行って良い」と小さな声で囁いた。
ラスティも花売りには気が付いていたが、もう会話をする気はない。
「分かった、行くよ」
エルディアは軽く頷いて、グリップをひねり、ペダルを左足で掻きあげた。エンジン音が響きドラコニスが動き出す。
いつものようにラスティはエルディアの腰に手を回してぐっと力を込めた。
一瞬、エルディアの体がほんの僅かに硬直する。
ぴったりとくっついたラスティは、その変化に気が付いて目を細めた。
エルディアはすぐに平静を装ってドラコニスを走らせたが、これまでとは明らかに違う反応だ。
「……今まで通りでいいんだよな?」
「あ、当たり前でしょ!!」
エンジン音に負けないようにラスティが少し声を張ってエルディアに問いかけると、エルディアが怒鳴り返すように返事をした。その耳が少し赤い。
それを確認してラスティはにんまり笑う。
これまで溜まった鬱憤が晴れていくようだった。
僅かに緊張しているエルディアの背中から、その心中を推し量ることは容易い。
そのまま、敢えてぴったりくっつくとしばらくはエルディアの反応を楽しんだ。
(……少しは今までの俺の苦労が分かっただろう)
一方のエルディアは、ラスティの小さな嫌がらせのせいで全く落ち着かない。
ドラコニスに乗るたびに、普通にやらせていたことのはずだ。それなのに変に意識をしてしまう。エルディアは、その動揺を悟られないようにすることで頭がいっぱいだ。
「運転、荒いぞ。安全運転なんだろ?」
「わ、分かってるわよ!!」
ラスティに背後から声をかけられて、エルディアは大きく息を吐いた。
確かにこんな状態のままでは危なすぎる。ぎゅっとグリップを握り直し、思考を切り替える。
グンっとスピードを上げると同時にエルディアの力みが抜けたようだった。
(……ちっ。持ち直したか)
悪いことではないはずなのだが、ラスティは残念そうに舌打ちした。
もう少しぐらいは狼狽えるエルディアを見ていたかったのだが仕方ない。
そこまで考えて自分の緊張感のなさに苦笑した。そんなところまでエルディアに影響されてしまったのかもしれない。
運び屋として気合いを入れ直したエルディアは、その後は危なげなくドラコニスを走らせ続け、やがて見えてきた湖のそばに停車した。
「一旦、休憩にしてご飯食べよう?」
「もう昼か……」
ジャンポネイルを出るときはまだ下の方にいた太陽は、すっかり真上に昇っている。
湖を囲むように植えられた木の陰から、空を見上げて、ラスティは眩しそうに手をかざした。
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