8
「へ、変装?」
「そうだよ。あんた子どもの格好でも、町じゃ絶対浮くもん」
けろりと告げると、エルディアはそのまま席を立ち、部屋の扉を開けるとドタドタと階段を降りていく。
「テキラ!あんたんとこのかわいいお孫さんの服、ここにもあるでしょ?」
「ああ!?なんだい、急に!あんたは強盗か!!」
「いいから、あの服頂戴よ!」
わぁわぁと言い合う声が響き、やがてそれは値引き交渉に変わる。
「古着なんだから銅1枚だってボッタクリだろ!」
「かわいい孫のプレミア付いてんだよ、銅5枚だ!!」
「分かったよ、じゃあ、銅3枚だ!!」
どうやら、銅3枚に落ち着いたようだ。
降りていったときと同じようにエルディアが、ドタドタと戻ってきた。
呆気に取られていたラスティの前に、バサリと子ども服が置かれた。
町の子どもがよく着るようなワンピースだった。
薄いピンクのワンピースは腰の辺りでミントグリーンのストライプの布に切り替えられており、エプロンを重ねると、裾から覗く色味が可憐だ。
襟と袖周りには素朴なレースがつけられており、少女らしいおしゃれさもある。
そして、上半身とお揃いのピンクのヘッドスカーフにもやはり同じようにレースがあしらわれている。
「なんだ、これは…」
嫌な予感しかしない。
じっくり細部まで確認して、ラスティは重い口を開いた。
「テキラの孫娘の着替えの予備」
エルディアは満面の笑顔で答えた。
その顔にカッとなってラスティはまた怒鳴る。
「これをどうしろと!?」
「着るに決まってんでしょ、ほかにどうすんのよ!?」
食って掛かったところで、予想通りの答えを返されて終わる。
「あんた、なんでもするって言ったじゃない」
予想よりはるかに悪い。
だが、ラスティはすっかり言質を取られて、言い返せない。
「だからって、おまえ!!」
「最適解なの!」
なおも言い募ろうとして遮られた。
エルディアがワンピースを広げてラスティににじり寄る。
「あんた、町の子にしては上品すぎるのよ。全然馴染まない!」
「し、仕方ないだろうが!」
「仕方ないから、おとなしい女の子設定にしたんでしょうが」
ラスティが1歩下がると、エルディアが1歩距離を詰めてくる。
小さな体の悲しいところだ。
あっという間に追い詰められた。
「いいわね、それ」
ギュバンスはワンピースを見て呟いた。完全に個人の趣味だろう。
ラスティは味方だと思っていたギュバンスの裏切りに非難の声を上げた。
「ギュバンス!!」
「あら、理屈的にも問題無いように思うけど?」
何しろ正体を隠すのが目的だ。
青年が少年なだけでも探しにくいだろうが、その上さらに少女なら、ややこしいこと、この上ない。
「…っぐ!…あ、兄上にだけは…」
「分かってるわよ。オルディには内緒にしておくわ」
「絶対だからな!!」
ラスティは結局この訳の分からない理屈に押し負けて、差し出されたワンピースを奪い取った。
「よ!さすが、竜騎士候補!」
完全に面白がっているエルディアを睨み付けて、やけくそぎみに着替えを始めようとする。
「…?」
「どうしたの?」
シンプルとはいえワンピース。
着方が分からなくて困惑するラスティは困った顔でギュバンスを見上げた。
「ああ、高貴な方の着替えは侍女がさせるものだものね。あなた、侍女も兼ねて頂戴ね?」
今度はギュバンスの目がにんまりと細くなり、そのままエルディアに向けられた。
「はぁ!?なんで、あたしが!!」
「だって私は付いていけないもの。殿下はお育ちが良いから慣れるまでは面倒見てくれるわよね?」
エルディアが不満そうに眉を寄せた。
「配達環境のせいで不具合が生じるような運び屋なんて、3流じゃない?」
全ての鬱憤を晴らすように、笑顔を向けられたエルディアは恐ろしく嫌そうな顔をする。
その顔を見たラスティは全ての羞恥心を犠牲にして、笑った。
「ああ、そうだな。俺はお坊っちゃんだから、おまえが何から何まで面倒見てくれないと弱ってしまうな」
「図太そうだけど?」
「繊細に決まってるだろう?」
ここに来てエルディアは、王家から来た2人をおちょくりすぎたことを少しだけ後悔した。
「癖、強すぎ…」
舌打ちすると、ラスティとギュバンスがよく似た笑顔で声を揃えた。
「「おまえに言われたくない!」」
それまで黙って見守っていたベルクが吹き出した。
「ははは!仲良くやれそうじゃないか、エルディア!」




