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「じゃあ、引き受けるんだな?」
ベルクが一応念のため、と確認する。
エルディアはラスティの柔らかい頬をみょーっと引っ張りながら頷いた。
結局カシスウェルである以上、家業の決まりは絶対なのだ。
「どうせ断れないし。このガキんちょに、運び屋のなんたるかを叩き込んでやらないといけないからね!」
「いらねぇよ、離せ!この無礼者!!」
エルディアの手首を掴んで無理矢理引き剥がすと、少し赤くなった頬のまま、大声を上げる。
「ぶれいー?」
だが、その剣幕も受け流してエルディアは鼻で笑った。
「あんた、これから刺客から身を隠しながら竜まで辿り着かなきゃいけないのよ?」
「そんなことは分かっている!」
「いーや、身分を隠すってことがどんなことか分かってないね」
食って掛かるラスティの目の前で指を立てて左右に揺らす。
「王族は勿論、貴族にだって間違われちゃいけないの。それなのに、そんなにお高く留まってちゃすぐバレるわ」
エルディアの言葉にラスティがグッと喉をつまらせた。
エルディアの言うことも、一理あると頭では分かっている。
だが、エルディアの勝ち誇った顔が癇に障るのも確かだった。
「いやいや。そうは言っても、坊っちゃん見所あると思うぜ?」
横から口を挟んでくるベルクの、褒めているのかなんなのか分からないフォローもラスティの苛立ちを煽る。
「本当にやめて頂戴。うちのラスティをポンコツにするのは」
ギュバンスがため息混じりに間に入ろうとするが、エルディアが片手で止めた。
「あんたもよ」
「…私?」
目を瞬かせるギュバンスにエルディアは頷いた。
「竜の場所に連れてくのは、このガキんちょだけ。あんたは別行動よ、分かってる?」
「あら、私を置いてくつもりなの?」
ギュバンスの目が険を帯びる。
甘い顔立ちに似つかわしくない殺気が立ち上った。
「当たり前でしょ?あんたも目立つもん」
だが、エルディアはその殺気さえもさらりと躱す。そして、何てことない顔で頷く。
「秘密の場所はバレないように行くのがお約束でしょ」
無駄に戦う気はないとエルディアが手を振った。
政敵や刺客に対しては、徹底抗戦しか考えてこなかったラスティとギュバンスが不満そうな顔をする。
身を隠すにしても、ある程度は叩き潰す気だったのだ。
「ただ、身を隠して逃げ回れっていうのか…?」
「バカね」
「お、おまえな、本気で不敬罪でぶっ飛ばすぞ!!」
間髪を入れないエルディアの呆れた顔に、ラスティは拳を握りしめた。
そんなラスティの額を、エルディアは指でピンと弾く。
「あんた、なにを目指してるのよ?」
「竜騎士だ!!」
「だったら、竜に会うまで余計な消耗は避けなさいよ」
またしても正論だ。
ラスティは再び、くっと言葉に詰まる。
エルディアは気が短いが、こういうところだけは酷く理に叶ったことを言う。
そこがまた、憎たらしい。
「分かったみたいね?」
黙り込んだ2人にエルディアは満足そうに頷いた。
「さて、ラスティ王弟殿下様?」
「…今度はなんだよ。気持ち悪いな」
急に改まった呼び方に、ラスティは身構えた。無礼だ無礼だと言ったものの、ちゃんと呼ばれるとそれはそれで不気味だ。
「失礼ね」
エルディアは短く舌打ちをしたが、すぐにその目を猫のように細めた。
「あんた、竜騎士になるためなら何でもする覚悟はあるのよね?」
「当たり前だろ。なにをバカなことを…」
言いかけて、ラスティは唐突に寒気を感じて背筋を震わせた。
(なんだ、何か凄く嫌な予感がする!)
反射的に身構えて、エルディアに目を向けた。
エルディアの目はにんまりと弧を描いたままだ。
「な、なにをさせる気だ…?」
思わず身を引きそうになる体をグッと堪えてエルディアを睨む。
「なにって…」
エルディアの唇が綺麗に引き上がった。
「変装に決まってるでしょ?」
ラスティの試練をより厳しいものにすると予感させるような、不吉な笑みだった。
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