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例えどんなに喚こうが、ならぬものはならぬのだ。
睨み合う2人にベルクはゆっくりと、首を振った。
「エルディア。おまえが何と言っても、依頼状が来た以上はこの仕事は絶対だ」
そしてラスティに目をやると、真っ直ぐに見つめた。
「体に変化が現れた以上、試練は始まっちまってます…」
再び、ゆっくりと首を振った。
「これも試練の1つと思って諦めてください」
「これも試練なのかよ!!」
絶対にエルディアの件は違うだろうと、ラスティが不満げに声を上げたが、ベルクは首を振るだけだった。
ギュバンスは腕を組み直し、少しだけ考えを巡らせた。
そして、静かに口を開いた。
「フェアじゃないから、こちらの情報も伝えておくけど…」
その声色に少しだけ固さが混ざっているのを父娘は敏感に感じとり、黙ってギュバンスの言葉の先を待つ。
「ラスティが竜騎士になることを、よく思ってない連中もいるわ…」
「…そもそも竜騎士を御伽話だと思っているのに?」
ギュバンスの言葉にエルディアが薄く笑うと、ギュバンスもあっさりと認めた。
「そうね。正確には、ラスティが『失敗』して、竜騎士になれないことを期待している連中がいるわ」
「失敗?」
エルディアの疑問に、ギュバンスが目を細めた。引き上がった口元に反して、その目の奥は冷たく光っている。
「もっと言うと、オルディス国王陛下の足を引っ張りたいやつらね?」
「兄上を古い伝承にすがらないと何もできない愚王にしたいんだよ」
ラスティの目がギラギラとその強さを増した。
僅か10歳の少年にしてはあまりにも強すぎる眼光に、エルディアが面白そうに目を向けた。
「あんたのお兄さんを?」
「俺が儀式の途中、いやその前にでも死んじまえば、兄上を『御伽話を信じて弟を死なせた愚かな王』に仕立て上げられる…」
「へぇ?」
確かに御伽話と現実の区別がつかない王なんて、家臣としても国民としても不安しかないだろう。
狙いどころは悪くない気もする。
竜騎士の話が御伽話ではなかった、ということ以外。
「まぁ、実際に目にしてみないと夢物語みたいな話だもんね」
エルディアは肩をすくめた。
竜の話を信じてなかったのは自分も同じなので、ラスティとギュバンスが語る連中を責める気にもなれなかったが。
「実際、俺の体はこんな状態だ。そもそも俺たちだってダメ元だったんだから、これはチャンスなんだよ」
ラスティの目がまっすぐにエルディアに向けられた。
「俺が本当に竜騎士になれば、兄上は竜に認められた王になる…」
御伽話が竜の加護という名に変われば、国王の価値は上がるだろう。
「いきなり子どもの体に変化するのは、少なくとも普通のことじゃない」
「まぁ、そうだね?」
「俺たちは、伝承は真実だと信じて動き始めたんだ…」
ラスティの目はエルディアを真っ直ぐ捕らえたままだ。
エルディアの目は益々面白そうに細くなった。
「それで?」
ラスティの強い視線を真っ向から受け止めて、エルディアは核心を促した。
「フェアじゃないからって話し始めたんだから、この仕事にはリスクがあるってことでしょ?」
「あぁ」
ラスティは濁すことなくはっきりと頷いた。隣でギュバンスが肩をすくめる。
「この手の話はもっと駆け引きに使いたかったわ、ラス」
「無駄だ。信用を失って終わる…」
ギュバンスの気持ちも分かるが、見るからに気の短そうな単純な女と、先ほどから口は挟まないがじっと動かないベルクは、そういう小細工を好まないだろう。
「いい判断だな、お坊っちゃま」
「お坊っちゃまはやめろ」
ベルクはラスティの観察力に内心で舌を巻きながら、表面上は何事もないように頷いて見せた。
「つまり?」
「俺たちが竜騎士の認識を変えたのと同じように、向こうもこの話の判断を変えてきた…」
ラスティはそれでも、不敵に笑った。
「ラスティが本当に竜騎士になる可能性があるって分かって、本格的に刺客を送ってきてるわ」
ギュバンスは駆け引きは諦めて、両手を広げて首を振った。
「ラスティ殿下を守りながら、この方を儀式の場所までつれていって欲しいのよ」
ギュバンスの目がベルクに向けられた。ベルクが視線で応じると、言いにくそうにギュバンスの口が開く。
「おたくのお嬢さん、かなり危険に巻き込まれるわ…」
だん!!!
ベルクが答えるより早く、エルディアがテーブルを叩いた。
エルディアの夕焼け色の目が燃えるように煌めく。
これまでで1番好戦的な目でギュバンスを捕らえると、唇の端を引き上げてその赤い舌を覗かせた。
「『運び屋』は、あたしだ。決めるのもあたし…、親父の許可は要らないの。分かる?」
ギュバンスの目が見開かれる。
(あら、私ったら初手を間違えたかしら…)
若い娘の心配など余計なお世話だったかもしれない。
一応年頃の娘だから父親の意見も聞いておこうと思ったが、父親の方もピクリとも反応しないところを見ると、エルディアの言うとおりなのだろう。
「ごめんなさい、あなたに敬意を欠く行動だったわ」
ギュバンスはあっさりと自分の非を認めて謝った。
エルディアはそれで満足したようで、もう1度体勢を戻し座り直す。
「リスクを共有してくれたのは、悪くないよ。今のあんたの行動も親切なのは分かってる…」
エルディアはもう1度ラスティとギュバンスに視線を戻すと、真剣な顔で釘を刺した。
「あたしに依頼するんだから、あたしを信じられないなら帰って」
絶対に断れないと何度も繰り返していたベルクも、今度は口を挟まない。
エルディアとラスティたちのやり取りを、黙って見つめている。
「命がかかるんだったらなおさら、あたしを信用してないやつは守れない」
ラスティが深く息を吐いた。
「分かった。今のは俺たちが悪かった」
素直な謝罪にエルディアの眉が上がった。ギュバンスも少し気まずそうに詫びた。
「…ごめんなさい」
ギュバンスの方は、ラスティに謝罪させてしまったことも、悔やんでいるのだろう。
「まぁ、いいわ。失礼はお互い様だし、今回は大目に見てあげる」
偉そうなエルディアに、ラスティのこめかみがピクリと動いたが、なんとか堪えた。
「それと、荷物を破損しないように運ぶのは、運び屋の基本の『基』よ、舐めんじゃないわよ!!」
「おまえ、俺が誰だか分かってて言ってるなら、本当に無礼だからな!!」
折角のラスティの頑張りは、続くエルディアの「荷物」扱いにあっさりと崩れ去り、結局怒鳴り声を上げたのだった。
「王家の運び屋」メモ:
オルディス・ペルノ・ライヴィスキ(国王)
・カクテルは「オールド・ファッションド」
・ライ・ウイスキー、角砂糖、アンゴスチュラ・ビターズ
・若き国王。温厚そうで意外とやり手。カクテル言葉は「わが道を行く」
※カクテルのレシピ・カクテル言葉には諸説あります。
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