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「俺だって、こんな半人前じゃなく、俺自身が引き受けたいとは思うがよ…」
ベルクはラスティとギュバンスに申し訳なさそうに眉を下げる。
ラスティは真剣な眼差しで深く頷くと、切実な声を出した。
「だったら是非そうして欲しいんだが…」
「なんだと、このガキんちょ!」
縋るようにベルクに告げるラスティに、すぐさまエルディアが噛みついた。
ベルクは牙を向く娘の頭を押さえつけて、首を振った。
「さっきも伝えた通り、『代替わり』しちまったんですよ…」
「ねぇ、その『代替わり』ってなんなの?そんなに融通が利かないものなのかしら?」
ベルク自身も不本意そうなのに、どうしてもエルディアにしかできないのだという態度に、ギュバンスは首をかしげる。
すると、エルディアが手に嵌めていたグローブを外して、右手の甲を突き出した。
「これを見な!」
「な、なに!?」
「ペンダントとこの紋章!!」
見るとエルディアの手の甲には、竜を象った紋章が浮き上がっている。
それをラスティとギュバンスに見えるように掲げると、エルディアは得意そうに唇の端を引き上げた。
「この2つが揃わないと、カシスウェルの運び屋は名乗れないのよ」
ふふん、とふんぞり返る娘の隣でベルクは苦笑する。自らの右手のグローブを外すと同じように右手の甲を2人に見せた。
「これは…」
「紋章が、消えかかってる…」
2人が見つめたベルクの右手の甲の竜の紋章は、エルディアのものより薄くなっており、所々はもう判別できない。
「一昨日くらいから、俺の紋章は消えかかってて、エルディアには浮き上がり始めていたんだよ」
「で、今朝、あたしの紋章は完成して、ペンダントもあたしのものになった!」
誇らしげなエルディアにベルクは肩をすくめた。
エルディアは、家業の決まりは鼻で笑っているくせに、運び屋の仕事は好きなのだ。
「これで、運び屋の見習いじゃなくなったってわけよ!」
偉そうに胸を張るエルディアを見て、ラスティが眉間にしわを寄せた。
「なんで、今、替わるんだよ」
不満げなラスティに視線を投げるとエルディアは、また鼻を鳴らした。
「知らないよ。そういうもんなの。あんたん家の事情なんか、あたしには関係ないし」
挑発的に笑うエルディアとは対照的にベルクは背もたれにそっと凭れかかり天井を見上げた。
(まぁ、エルディアじゃなきゃダメだってことなんだろうな…)
エルディアよりはカシスウェルの事情に詳しいベルクはそう判断すると、重く息を吐いた。
「そういうわけですんで、仕事はエルディアが引き受けることになりますよ?」
「…そう。仕方ないわね」
ギュバンスが頷いた。
元より他に当てがないのだから、選択の余地もないのだ。
それはラスティも分かっているはずだ。
だからこそ、不本意そうな顔で黙り込んでいる。
「嫌なら、帰んなよ」
エルディアがその顔を見て、ヒラヒラと手を振る。
「やっぱ、やめますぅーって言ってさ。まぁ、元の体に戻れるのかは知らないけど」
「1度口にしたことを、軽々しく返上する気はない!」
バカにしたようなエルディアの笑みに、ラスティはカッとなり怒鳴り返した。
「あら、そうなのぉ?じゃあ、19代目の!この!あたしに!!」
物凄く嬉しそうな顔を、ラスティに近づける。
鼻先にあるエルディアの得意気な笑顔に、ラスティの眉がぎゅっと寄った。
「ちゃーんと、お願いしなさいな!!」
「断れねぇ依頼なんだろうが!!」
絶対に「お願い」したくないラスティが、すぱーんと思い切りエルディアの頭を叩いた。
「いったーい!なんすんのよ、このクソガキ!」
「うるさい!大体『絶対断れない仕事』っつーのは、絶対断れないんだよ、バーカ!!」
「か、かわいくないガキね!!」
テーブルを挟んで怒鳴り合う2人に、ギュバンスが嫌そうに息を吐いた。
「ねぇ。うちのラスティは、本来あんなおバカな子じゃないのよ?」
「面目ない…」
言外に「あんたの娘の悪影響」だと含ませると、ベルクは深く息を吐いた。
「ちょっと、親父!このガキんちょ、マジでムカつくんだけど!」
「こら、そこの親父!本当にこの無礼な女じゃないとダメなのか!!」
ギュバンスとベルクが残念なものを見るような目を2人に向けて、同時に長い息を吐いた。
「王家の運び屋」メモ:
ギュバンス・ド・クリュー(侯爵家次男・護衛)
・カクテルは「キューバン・スクリュー」
・ラム、オレンジジュース
・ライヴィスキ兄弟大好き。カクテル言葉は「油断」
※カクテルのレシピ・カクテル言葉には諸説あります。
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