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「うるさいな。大体、どこにあるか分かんないような『竜の聖域』とか、親父、場所知ってんの?」
面倒くさそうに、頬杖をつく娘にベルクは再び嘆いた。
「俺も、おまえのじいさんも何度も話しただろうが!!」
「…ねぇ。私、お父様のお話も聞きたいわ?」
言い争うエルディアとベルクの横からギュバンスが口を挟んだ。
その言葉にエルディアの片眉が上がる。
ベルクは引き受ける気でいるが、エルディアはまだ決めていない。
ギュバンスやラスティと同じように、この話を御伽話だと思っていたのだ。
「例の依頼状」だって実在するとは思っていなかったし、竜騎士のことだってそうだ。
何より、突然訪れた王家の関係者たちを信用していない。
「こんな話に興味があるなんて、変わってるね?」
「ふふ。情報は多い方がいいわ。取捨選択は得意なの。いらない話だと判断したら、忘れるわ」
お互いに腹の中を見せないように、笑い合った。
ギュバンスの隣でラスティが居心地悪そうにベルクを見上げた。
「おまえが『運び屋』なのではないのか?」
先ほどから気になっていたことを口にする。
話が始まってから、ベルクとエルディアはずっと同じ立場で話をしている。
正直、部屋に訪れたときから運び屋は父親の方だろうと思っていたのだが、嫌な予感がした。
「すいませんね、お坊っちゃま。ほんのちょっと前に代替わりしちまったんですよ」
本当に申し訳なさそうな顔をされては、文句を言うわけにもいかない。
「代替わり…」
「今日からあたしが19代目よ」
胸元のペンダントを外して全員の目の前で誇らしげに揺らして見せる。
「…そのペンダントは何かしら?」
ペンダントにギュバンスとラスティの視線が集まる。
「うちの家業はこれの所有者が代表者になんの」
「ペンダントの?」
「そ。なんか気難しくて、資格がないと身に付けられないのよ」
ロンバス型のペンダントヘッドをぶらぶらと揺らしてエルディアは口を尖らせた。
ペンダントは中心部に深い青色の魔鉱石が埋め込まれていて、アンティークっぽいデザインはどこか曰くがありそうな雰囲気を出している。
「だ、け、ど!」
そのペンダントを首に掛けなおし、エルディアは胸を張った。
「ついにあたしの手に入ったってわけ!」
「いつだよ…」
「あんたたちが来る、ちょっと前」
どうやら本当に今さっきの話らしい。
ラスティはかわいらしい少年の顔で、眉間にしわを寄せた。
「本当に僅かな時間の差か。大丈夫なのか、こいつで…」
ラスティとしても遊びで竜騎士を目指すわけではない。
父親の方は少しは事の重大さを感じているようだが、娘の方はそれも怪しい。
ちらりと見上げると、こちらを探るようなエルディアと目が合った。
「あたしだってあんたみたいな小僧を運んでやるかどうか、まだ保留中だからね?」
「だから、この『依頼状』は絶対断れないと何度も繰り返し言っただろうが!!」
エルディアの言葉にベルクが青筋を立てて怒鳴りつけた。
わが娘ながら、先祖代々の家訓を全く聞く気がないとは嘆かわしい。
「だって、そんなカビの生えた昔話だよ?逆になんで親父たちが信じてるのかの方が理解できないし!」
エルディアも負けずに言い返した。
ペンダントの仕組みは確かに普通ではない。
百歩譲ってなにか大切な資質を見極めるための装置かもしれない。
「だけど、竜と竜騎士なんて信じられない!」
「俺だって根拠もなくこんな御伽噺みたいな話を信じているわけじゃない!」
ベルクの大声にエルディアが一瞬、怯む。
「あら、じゃあ何か、あなたが確信するだけの根拠が他にあるのかしら?」
様子を見守っていたギュバンスが目を細めてベルクを眺めた。
恐らく、今はベルクが一番真実に近い。
ギュバンスの言葉にベルクが大きく頷いた。
「金だ…」
「はい?」
「だから金の動きだよ!」
ベルクが大きくテーブルを叩く。
そしてエルディアに向き直ると、真剣な顔でその肩を掴んだ。
「俺たちの『運び屋』としての収入がどのくらいか、言ってみろ!」
「え、えっと…常に家賃を滞納するくらい…?」
「そうだ!おまえのじいさんの代も曽じいさんの代も、大体そんなもんだ」
エルディアの目が宙を泳ぐ。
ベルクがもう1度、大きくうなずいた。それを見たギュバンスは、長い指先を顎に当てて首を少しだけ傾けた。
「全然儲からないのね、『運び屋』って…」
「なぁ、本当に大丈夫なのか。こいつらで…」
父娘の様子にラスティとギュバンスは別の意味で不安に目を揺らす。
そんな2人を置き去りにベルクは切々と娘に言って聞かせた。
「こんっなに、稼ぎがねぇのに、なんとか暮らしている…なんでだか分かるか?」
「そ、それは…」
「そうだ、俺たちの先祖が王家の依頼を受けて大金を巻き上げたからだ!」
エルディアにもそれは薄々分かっていた。
代々続く家業の途中途中、恐ろしく疎らだが、信じられない大金が入ってくる不自然な時期がカシスウェルにはあるのだ。
「おまえの気持ちも分かる。なぜなら俺も同じことを言って、じいさんに説教されたからだ」
ベルクの目がまっすぐにエルディアを捉えた。
エルディアが小さく呟く。
「ここでこの仕事を受けなきゃ、先祖代々食いつぶしてきた資産が…底を尽きるんだね」
エルディアは観念したように項垂れた。カシスウェルのお財布事情によって、エルディアは先祖代々の言いつけを守らざるを得ないことを理解したのだ。
目の前で繰り広げられた、カシスウェル父娘の情けないやり取りにラスティが不満そうに息を吐いた。
「なあ…、本当にこいつらじゃないとダメなのか…」
「仕方ないでしょう…。あなたのお兄様がそう言っているんだもの」
4人が4人、それぞれの思惑でがっくりと肩を落とした。
「王家の運び屋」メモ:
ラスティ・ベルノ・ライヴィスキ(王弟)
・カクテルは「ラスティ・ネイル」
・スコッチ・ウイスキー、ドランブイ
・お兄ちゃん大好き。カクテル言葉は「私の苦痛を和らげる 」
※カクテルのレシピ・カクテル言葉には諸説あります。
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