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「少し事情があってな。このあたりの地脈とサンダクラプ村について調べている」
「……なるほど?」
「おまえの知見も借りたいんだ。協力してくれるな?」
黙ってラスティの話に耳を傾けていたアランは、おもむろにブルーベルを見上げるといくつかの番号を伝えて資料を持ってくるように指示をした。
ブルーベルは慌ててメモを取り、バタバタと研究室に戻っていく。
「ついに殿下も僕の研究に興味を持ってくれたというわけですね!」
「い、いや、そういうわけでは……」
嬉しそうにラスティの両手を握って上下に思いっきり振っているアランを、エルディアは面白そうに眺めた。
ラスティが変わり者と言っていた通り、相手が王族でも全くお構いなしに自分の趣味の話に持ち込むあたり、好感が持てる。
だが、このままでは話が進まない。
そもそもここに訪れた理由は、サンダクラプ村にあるだろう神殿のヒント探しだ。
博士のご高説を賜っている時間はない。
エルディアがラスティを引き寄せて、そっとアランから引き離した。
「ごめんなさいね、地形学とはちょっと違うアプローチなのよ」
「ん? 君は?」
先ほど認識したばかりだというのに、ラスティの話が魅力的過ぎてすっかり忘れていた。アランはエルディアに改めて目を向ける。
「あたしは……えーと」
「エルディアだ。エルディア・カシスウェル」
何と自己紹介するべきか迷って口ごもっていると、ラスティはエルディアの腕の中からアランに向かって紹介した。
エルディアに視線を送り、問題ないと頷く。
「そう、あたしはエルディア。サンダクラプ村について知りたいことがあって」
「ほう? 何が知りたいんだい?」
ラスティの合図を受けて頷き返したエルディアは、本名を名乗って話を続けた。
「1つはここの地脈が『竜脈』って呼ばれている由来。あと1つはサンダクラプ村の近くに昔あったっていう神殿について」
「……神殿?」
「どっちでもいいんだけど、知ってることがあったら教えてほしいの」
エルディアが話し終えると、ちょうどブルーベルが戻ってきた。
やはり両手いっぱいに資料を抱えている。
応接の低いテーブルにどさっと下ろすと、一束ずつ並べていく。
せっせとそれを並べるブルーベルにアランが声をかけた。
「ブルーベル、君はサンダクラプ村の出身だろ?」
「……? ええ。そうですけど?」
「君の村には神殿があるのかい?」
ブルーベルは青紫色の瞳を瞬いた。
戸惑ったようにアランを見上げると小さく頷いた。
「ええ、昔はあったようですよ?」
「ねえ、その場所がどの辺だったかって分かる?」
「え? あ、ああ。私の祖父なら知ってるかも」
エルディアとラスティがばっと顔を見合わせた。
そんな2人の様子を不思議そうに眺めていたアランだったが、ブルーベルが持ってきた資料を確認すると、ラスティに向かって差し出した。
「それと、『竜脈』についてですが、その由来はいくつかあって、一番多いのは『竜が眠る場所だから』という理由ですね」
ラスティは差し出された資料に目を落として頷いた。
町で老婆たちに聞いた話だ。
「あとは、温水がわずかに電気を帯びているから、という説です」
「……電気?」
「温泉というものは地熱によって温められた地下水なんですよ。それはこの町以外にも火山地帯などにはよく見られるものなのです……」
ラスティは資料から目を上げて、アランの言葉に耳を傾ける。
アランは目を輝かせながら、ジャンポネイルの特異性について語った。
「温泉が電気を通すこと自体は珍しくありません。ですが、この土地の湯はそれとは違う。湧き出した湯そのものが、わずかな電気を帯びているんです。実に不思議じゃないですか! そんなことを可能にする地脈など聞いたことがない!!!」
話しているうちに興奮してきたのか、バンっとテーブルを叩いてラスティに詰め寄った。
ラスティは思わず後ろに仰け反る。
「あ、ああ……」
「ですからこの地方の独特な地脈は『雷竜』の影響を受けたものではないかという仮説です!」
「雷竜……?」
エルディアが新たに出てきた言葉に反応して、ブルーベルを見上げた。
なんだか、こっちの方が話が聞きやすそうだったからだ。
「ええ、サンダクラプ村に眠る竜は『雷竜』と言われていますから」
それはまた、はっきりとした個性を持った竜である。
エルディアは口の中で小さく「雷竜……」と繰り返した。




