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多少ラスティが機嫌を損ねたものの、2人はジャンポネイルの夜を十分楽しんで宿に戻った。
部屋のソファーにどさっと腰を下ろすとエルディアは目一杯伸びをする。
「んー! お腹いっぱい!!」
「あほ程食べてたからな、おまえ」
あれもこれもと次々に手を出すエルディアを、信じられないものを見る目で見上げたことを思い出す。
ラスティだって結構食べたのだが、エルディアはその倍くらい食べていた気がする。
「こういうところじゃないと売ってなさそうなものばっかりだったもん、しょうがないじゃん」
「悪いなんて言ってないだろ、食い意地が張ってるなって思っただけだよ」
唇を尖らすエルディアにラスティは肩をすくめてみせて、サイドテーブルの横の椅子にすとんと腰を下ろした。
「もしかして、まだ髪飾りのこと根に持ってるの?」
「持つわけないだろ。たかがおまえより俺の方が美少女だったってだけで」
あの後、屋台の男に散々すすめられて結局一つだけ購入する羽目になった髪飾りを、エルディアに放り投げた。
「かわいくなーい。絶対根に持ってるじゃん」
「事実だろ。せめて俺にだけは絶対に買ってほしいって言ってきたのはあの男だろ」
ふふんと顎を上げてエルディアに馬鹿にしたような目を向けてみる。もちろん、そんなことがラスティにとって自慢になるものではないことくらいは分かっているので、内心は面白くないのだが顔には出さない。
エルディアはソファーから立ち上がるとラスティの髪に投げられた髪飾りをつけた。そして顔を近づけて「まあ、なんて美少女なのかしら!!」とわざとらしく手を広げた。
「腹立つな……」
「お互い様でしょ」
乱暴にラスティが髪飾りを外し、サイドテーブルにそっと置いた。
まことに甚だ不本意ではあるが、エルディアからもらったプレゼントではあるので扱いに困っているのも確かだ。
(これを大事に取っておくのもなんか違うしな……どうすんだよ、これ)
ラスティが戸惑ったように髪飾りを見つめるので、エルディアは肩をすくめて髪飾りを取り上げた。
「ま、いいか。これはテキラのお孫さんへのお土産にしよう?」
「……ああ、ワンピース貰っちゃったしな」
安物の土産にしか見えない気もするが、観光地の土産としては妥当だろう。使い道など断じてないのに、少しだけ後ろ髪をひかれている自分に苦笑する。
それを隠してラスティはエルディアの提案に頷いた。
「あれ? もしかして結構気に入ってた?」
「そ、そんなわけないだろ!!」
見透かす様でいて的外れなエルディアの言葉に噛みつくと、ラスティは部屋に掛けてあったタオルを手に取り、バタバタとバスルームへ向かった。
「風呂、入る!!」
「はいはい、いってらっしゃーい」
エルディアはひらひらと手を振って見送り、そのまま部屋に置かれたお茶に手を伸ばす。ほんわかと柔らかな花の香りがした。
しばらくするとラスティが風呂から上がってくる。そのラスティと入れ替わるように今度はエルディアがバスルームに向かった。
ラスティはエルディアが風呂に入っている間に、とっとと寝てしまおうとソファーの上に転がろうとしたが、少し考えるように眉を寄せた。
このままここで寝たとしても、昨晩と同じことになるだけな気がした。
だとしたら、寝る前に釘を刺しておく必要がある。
絶対に一緒に寝るなと、一言言っておかないとラスティだけが消耗する一方だ。
(なんで、俺がこんなことまで気にしなきゃいけないんだ……)
腑に落ちない気持ちもあったが、背に腹は変えられない。
あれこれ考えた結果、やはり何としてでも納得させなくてはと決意を固めたところでエルディアが出てきた。
「はー、気持ちよかった~」
「そりゃ、良かったな」
温まったせいかほんのり赤みの差している肌から目をそらす。
大体、この宿の備え付けのルームウェアにも物申したい。
軽く前を合わせて紐のような帯で止めるだけの簡単なつくりのそれは、サイズを選ばないかもしれないが、酷く頼りない。
雑なエルディアが着付けると、余計に頼りないのだ。
「ちゃんと襟を合わせて着ろ、みっともない!」
「ほんと、うるさいわね、あんた」
ルームウェアくらい好きにさせろと言わんばかりだが、ラスティがじっとりとした目で不満そうに見つめると渋々着直した。
「それと、俺は今日はソファーで寝るからな! 絶対こっち来るなよ」
「はぁ? なんでよ」
ラスティがきっぱりとエルディアに告げると、案の定エルディアは眉を寄せた。
ラスティからしたら、なんでもくそもない。
「そもそも、俺の体が幼いからって女性と一緒に寝るのはおかしいんだよ!」
「じゃあ、あたしがソファーで寝る。ベッドがあるのに王族をソファーで寝かせるのだっておかしいでしょ!?」
ラスティの主張にエルディアも一歩も引かない。
だが、ラスティもここは引けない。
「ベッドがあるのに女性をソファーで寝かせるなんてできるか!」
「あんたがソファーで寝るなら、あたしは床で寝るよ!! それでもいいの!?」
「なんでそうなるんだよ!」
妙な意地の張り合いが続き、もはや言っていることもよく分からない内容になってくる。
ラスティは苛立ちながら、声を張ったがエルディアは全く聞き耳を持たない。
「一緒に寝るか、あたしがソファーで寝るかの二択!! それ以外はダメ」
「だから、なんで……」
「大人が2人寝たって余裕ありそうなベッドだよ?わざわざソファーで寝る意味が分からない!いまから3つ数える間に決めて!」
強引にエルディアが話をまとめにかかる。
「だから……!!」
「いーち」
「俺の話を聞けよ!!」
「にー」
「おい、こら!!」
「さん! はい、一緒に寝ましょ」
ラスティが何を言っても全く聞く気のないエルディアは、ずるずるとラスティを引きずってベッドに放り込んだ。
「あのなぁ!!」
「もう、決定しました! あんたはあたしと寝るの。はい、おやすみ!」
ラスティはがっくりと肩を落とす。
そしてせめてもの抵抗に、エルディアと自分の間に部屋中のクッションを並べた。
こんなものでも無いよりましだ。
「絶対こっちに入ってくんな」
全く眠れる気はしなかったが、本人の気持ちと子どもの体力は関係なかったようで、しばらくすると、スーッと意識を飛ばしていった。




