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駐車場で少女から花を買ったあとは、いよいよやることもなくなった。
ハワード研究室に行けるのは、早くても3日後だ。
「よし、観光しよう!」
「またそれかよ……」
エルディアが満面の笑顔で手を打つのを、ラスティは呆れたように眺めた。
だが、これはもう決定事項だろう。これまでの経験を振り返り、確信する。
そうであれば、異議を唱えるだけ無駄だ。
(一応、追われてる身のはずなんだがな……)
エルディアの能天気さがそうさせるのか、全く緊張感が感じられない。
それでもエルディア自身が警戒を怠っているかといえば、そうでもないのでラスティは大人しく従った。
「なんかあったら、おまえが盾だからな?」
「『淑女』に向かって言う言葉じゃないわ!」
冗談めかしてラスティが見上げると、エルディアはラスティがジーンに向かって告げた言葉を蒸し返す。
「『一応』って言っただろ?」
「『一応』でも淑女は淑女じゃん!」
しょうもないことを言い争いながら、町の中央へ向かってみる。
観光地なのだから、中心地なら何か面白いものがあるかもしれない。
2人は追われる立場を一時忘れて、ジャンポネイルの観光を楽しむことにした。
ジーンの家で話し込んでから温泉に浸り、駐車場に移動して少女から花を買った。
その時点で、ジャンポネイルには夕日が落ち始めていた。
「なんか、不思議な町並みだよね?」
「確かにな」
夕焼けに染まる町は、屋台も王都のものとは趣が異なる。
見たことのない雑貨がずらりと並んでいた。
軒先にぶら下がるランタンは紙で作られており、中で灯る蝋燭が透かし模様を浮き上がらせている。それが夕暮れの町を幻想的に彩っていた。そしてほんのりと漂う香木の香りが、同じ国内だというのにジャンポネイルを異国情緒あふれる街に感じさせた。
「なんだか、無性に懐かしい気持ちにさせる場所だな……」
「ねぇ。不思議な町だよね?」
感傷的な雰囲気の中、町の中心地に出る。すると、今度は食欲を刺激する食べ物のいい匂いに満ちている。
「わぁ! おいしそう!!」
「あっという間に、食い意地に引っ張られたな!」
まさに色気より食い気と言わんばかりに、エルディアが忙しくあちこちの店を覗き込んだ。
「ねぇ! 全部おいしそうだよ、何食べたい!?」
「なんでもいいよ」
「バカ言わないで! 世の中に『なんでもいい』ご飯なんてないの!」
どういう理屈なのかは分からないがエルディアに強く言い切られて腕を引かれる。
仕方なくエルディアに倣ってラスティも屋台を覗き込んだ。
見たことのないような軽食があちらこちらにあり、目移りしてしまう。
「ねぇ、これは!?」
「いや、あれも食おう!!」
結局、人のことなど言えないほど、ラスティも屋台を満喫した。
ぶらぶらしながら2人でタコの入った球状の生地を口の中に放り込むと、あまりの熱さにはふはふと息を洩らす。
少し変わったトロリとした甘辛いソースに乾燥させて細かくした海草がトッピングされている。エルディアは何とかその熱い塊を飲み込むと、手元にまだ残っているそれを物珍しそうに眺めた。
ラスティはまだ、はふはふしている。
「変わった味だよねぇ。海がないのにタコはあるのね?」
チラリと目を向けたそこには大きな文字で「たこ焼き」と書かれていた。
「タコを焼いてるからか?」
「え、タコの形に似てるからじゃない?」
「似てるか、これ?」
2人で首をひねりながら顔を寄せ合って、せっせとそれを頬張った。
他にも、リンゴをコーティングした飴やら、虹色の綿あめやら夕食にはならなそうなものから、イカを焼いたものや炒めた麺類など珍しい食べ物がたくさんあったので、片っ端から試してみる。
「なんだか、体に悪そうなものばかりだな」
「たまにはいいんじゃない? 悪魔的においしいわね~」
なんだかんだ言いながら、エルディアとラスティはジャンポネイルの夜を満喫していく。
一通り食べて、満腹になった2人はそのまま雑貨の屋台も覗いてみる。
色とりどりの髪飾りを手に取って、エルディアが笑いながらラスティの髪に当ててみた。
「うん、かわいいじゃない!」
「ぶっ飛ばすぞ、てめぇ」
エルディアが満足そうに目を細めると、ラスティが口汚く言い返し、髪飾りをエルディアに押し返す。
「やだ、口が悪くなってる!! 誰に似たのよ」
「おまえだよ!!」
言い合いながらも仲のよさそうな姉妹に、屋台の男は笑いかけた。
「良く似合ってるよ、お嬢ちゃん。お姉ちゃんとお揃いで買ってみたらどうだい?」
ほんの一瞬『お揃い』に惹かれたことを誤魔化すようにラスティはエルディアの後ろに隠れた。
「いらない!!」
エルディアは堪えきれずに爆笑して、しばらくラスティは機嫌を損ねていた。




