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「じゃあ、1回戻ろうか?」
「そうだな。ここにいてもしょうがないしな……」
髪も乾かして服装も整えたラスティにエルディアは声をかけた。
回数はよくわからないが、多分1日1回入ればいいのだろう。
というか、あの様子ではもし違うなら何か言ってくるだろう。
2人はそう判断して、宿へ戻ることにする。
「まあ、1週間ぼんやり過ごすのもなんだし、何かヒントがあると良いんだけどねぇ」
「ヒントって言ったって、闇雲に探したってしょうがないだろう?」
「それはそうなんだけどさ」
宿へ戻る道すがら、エルディアは手持無沙汰そうに呟いた。
実際のところラスティが「竜気」を取り込んでいる間は何もできることがない。
どうしたものかと考えていたが、ふと「ハワード研究室」とやらが気になってきた。
「ねぇ、ハワード博士ってもともとこの地域に興味があって研究している博士なんだよね?」
「ん? まあ、そうだな」
「いつもこっちに居たりするの?」
ラスティは目を瞬いて、少しだけ考え込んだ。
確か、本人が滞在しているかどうかは分からないが研究室はこの町にもあったような気がする。
「研究室があった……はずだ」
「そこ、行けるかな?」
「……確認してみる」
ラスティは頭の中で段取りを計算した。
ニコラとラスティをつなぐ花売りがまだ駐車場にいるようなら、連絡手段は皆無ではない。研究員として名前を使わせてもらっているなら何らかの説明をしているだろうし、カミルグ研究員が全く研究室に寄り付かないのも不自然だ。
頭の中での整理が終わると、今度ははっきりとエルディアに頷いて見せた。
「行けるはずだ」
「やった。そこでの地理情報も照合してみたいわ」
エルディアの提案に乗るような形でラスティは頷いた。
そして、2人は宿を通り越して駐車場へ向かった。
くるりと見渡すと、今日も花売りの少女は観光客に花籠を見せて回っている。
ラスティはエルディアを見上げると、手を出した。
「紙とペンはあるか?」
「あるけど……え、今書くの?」
きょとんとするエルディアから紙とペンを受け取ると、さらさらとメモを書きつけた。
覗き込んだエルディアにはやっぱりさっぱり分からない。
「これ、今、渡したらどのくらいでお義姉さんのところに届くの?」
エルディアとしては素朴な疑問だった。
物理的な距離がかなりあるのだ。
なんなら、1週間後に届いてもおかしくない気がした。
「あれの見た目が少女でも、王妃の手配した工作員だぞ?」
「やだ、本当に怖いんだけど!」
深入りしてはいけない情報な気がして、エルディアは詳しく話を聞くことをやめた。
賢明な判断だとラスティは黙って頷いた。
「なんか、知らなくていいことをどんどん知っていってる気がするわ……」
「そのうち後戻りできなくなるかもな?」
「怖いこと言うの、やめてよ!」
にやにやと笑うラスティに、エルディアは両手で腕をさするようにして悲鳴を上げた。
そんなエルディアに「冗談だよ」と笑うと、メモをエルディアに渡して少女から花を買うように指示をした。
「はいはい。買ってあげますよー」
妹にねだられて花を買いに来た風を装って、花売りに近づく。
花売りは屈託のない笑顔をエルディアに向けた。
「あ、この前のお姉さん! ジャンポネイルは楽しんでいますか?」
「うん、良い町だね?」
無邪気な町の花売りは、事前にラスティから話を聞いていても「町の花売り」以外には全然見えない。
エルディアは笑顔を保ったまま、花売りから花を買う。
「ありがとうございます!」
コインと同時に滑り込ませたメモも顔色一つ変えず受け取り、かわいらしい笑顔で頭を下げると、花売りは軽やかに次の客へと花籠を持って移動した。
「あれって、返事はどうやってもらうの?」
「返事なんてもらわねぇよ?」
「え、じゃあどうするの……」
ラスティは唇の端を引き上げて、エルディアを見上げた。
何かを企む時のラスティは時々こういう顔をする。
小さな悪女顔にエルディアは頬をひきつらせた。
「あんた、ときどき悪い顔するわよね?」
「失礼なやつだな。ハワードの研究室に3日後に行くから手配してくれって伝えただけだよ」
「向こうの都合は!?」
思わず聞き返したエルディアに、ラスティはきょとんとした顔をした。
その顔にエルディアはしみじみとため息を吐いた。
「ああ、あんたも王族様ってことなのね。なんて傲慢!!」
「は!? 失礼だな! おまえが行きたいって言ったんだろうが!」
言ったけど、相手の都合くらいは聞いてあげてほしい。
下々の至極まっとうな要望だとエルディアは強く思った。




