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土日は3話公開です。
「私がいても、いなくても自由に出入りしていいよ」
2人の不満を当然のように黙殺して、ジーンはエルディアに銀色の鍵を手渡した。
エルディアは小さな飾りのついた鍵を摘まんで目の前で振る。
「あんた、ここに住んでるの?」
「いいや。朝、あのカフェに行くときに使っているだけだよ」
やはりあのカフェの常連らしい。
エルディアは少し思い出して苦い顔をした。
折角、おいしかったのに行きにくくなったではないか。
「ああ、それと…」
ジーンはおもむろにエルディアの右手を掬い取った。
その手にはめられた指貫きグローブをするりと外し、恭しく掲げてその甲を確かめた。
そこにははっきりと竜の紋章が浮かび上がっている。
それを確認すると満足そうに目を細めた。
その一連の優雅な動作は、貴婦人をダンスに誘う貴族のようだった。
ばしっ!!!
乾いた音がして、ジーンの手が叩き落される。
ラスティが不機嫌そうな顔で、エルディアを引き離した。
「何やってんだよ」
「おやおや…?」
「こんなんでも、一応!!! 一応だけど!!! 淑女だぞ。勝手に障るなんて不躾だろう」
驚いたのはジーンだけではない。
エルディアも目を丸くしたが、すぐにその内容にカチンときて言い返す。
「ちょっと!!『一応』ってなんなのよ!? 強調しすぎでしょうが!」
「うるさい、おまえもちょっとは警戒しろ!!」
ぎゃんぎゃんと騒ぎ始めた二人の様子に、笑いたい衝動を堪えてジーンは口元に手を当てた。
なんとも仲の良いことだ。
「失礼したね。ちょっとした確認だよ」
「確認?」
「君の紋章はしっかりと完成しているね?」
そんなものは旅に出る前に綺麗に完成していたのだが、エルディアは不思議そうな顔をしたものの、黙ってうなずいた。
ラスティはまだ毛を逆立てた子猫のようになっている。
これ以上触れては、また機嫌を損ねるのだろう。
ジーンは自分の首元を指してエルディアの胸元を見るように促した。
その動きにエルディアが胸元のペンダントを掲げる。
「これ?」
「ああ。ちゃんと身に着けているようだから心配いらないだろうが、それも大事なアイテムだから肌身離さず持っているように」
エルディアはペンダントをじっと見つめた。
運び屋の代替わりに『ペンダント』と『紋章』が必要なのは、この儀式のためか。
意味の分からないルールだと思っていたが、意味の分からない儀式に必要ということであれば、それはそうだろう。
エルディアは深く考えることを放棄して頷いた。
「分かった。今までもずっと外してないけど、ちゃんとつけておくよ」
「そうしたまえ」
これで伝えることはもうないと、ジーンが去ろうとするのでラスティが慌てて引き留める。
「竜気」を溜めた後の話はどうなるのかまだ聞いていない。
「おい! 竜気が溜まったっていうのは何で判断するんだよ!」
「…時が来れば分かる」
「時がって…」
あまりにも漠然とした指標にラスティの顔が戸惑いに変わる。
ジーンはラスティを見つめながら、唇を引き上げた。
「資質があれば何らかの変化が現れるよ。無ければ諦めなさい」
「諦めろって、おい!!」
問い詰めようと手を伸ばしたラスティの指先で、先ほどの少女のように花びらが舞った。
一瞬の出来事で、ジーンは綺麗にその姿を消し去ったのだった。
「…なんなんだ、あいつ…」
困惑を隠せないラスティにエルディアは肩をすくめた。
意味が分からないことには同意するが、大した問題ではないような気がした。
軽く肩に手を置いて慰める。
「大丈夫だって。あいつ毎朝カフェに行くために、ここに出てくるんだから」
確かに演出めいた消え方をしたが、明日の朝、とっ捕まえることは簡単そうだった。
ラスティは思わずエルディアをぽかんと見つめる。
「じゃあ、何なんだよ。この演出…」
「大道芸が好きなんじゃない?」
突き詰めるのもあほらしい気持ちになって、2人はジーンを追求することを諦めた。
竜気が溜まるまで、とにかくこの温泉に通うしかない。
仕方がないので、その間にほかの情報収集をすることにする。
神殿の謎も大したことがなさそうな気がしてきていたが、お互いにそのことには触れずになんとなく顔を見合わせた。




