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土日は3話公開です。
「悪いというわけではないよ。想定外だというだけだ」
エルディアの不満そうな顔を見て、ジーンは肩をすくめた。
それでもエルディアは納得いかない顔をしたままだった。自分の仕事にケチをつけられた気分なのだろう。ラスティはその顔を見上げながら、ため息を吐いた。
「こいつが出発前に帽子屋を特定していることが問題なんじゃなくて、そこでかけるべき時間がショートカットされたことが問題なんだな?」
「まあ、そうとも言えるね。そもそもの目的は『時間をかけること』と『信頼関係を築けるかどうか』の2つだからね」
「なら、『信頼関係』の方は問題ない」
ラスティがきっぱりと告げると、ジーンは愉快そうに目を細めた。
想定した時間をかけなくても、確認したかった『関係』は築かれているようだったので、静かに頷いた。
「確かに、そういうことであれば『時間』だけが問題になるわけだけど…」
「なんでよ、『帽子を作るなら絶対この帽子屋』って言われたら、作ってくれるんだと思うじゃない!!」
秘かに楽しみにしていたのに、ちっとも作ってくれないからこっそり調べたら、なんだか曰くありげだったというだけだ。
あの時のがっかりした気持ちを返してほしいくらいだ。
「今まで、『竜騎士』の儀式を行うときに存在した運び屋は全員男だったからね。女性の場合は帽子を買ってもらえると期待してしまうということは、全く盲点だったよ」
ジーンが口の中で呟いた言葉は、ため息のように微かなものだった。
もちろん、そんな言葉はエルディアの耳には届かなかったので、エルディアは唇を尖らせたままだ。
「おまえ、帽子が欲しかったのか?」
「小さいころね。なんかかわいい帽子っぽかったじゃない」
所々で顔を出すエルディアの少女趣味を確認しつつ、ラスティは少しだけ手持ちの情報を改める。
(こいつ、物語も結構恋愛小説読んでるのかもしれないな…)
まったく今はどうでもいいことだったが、なんとなく心のメモに書きつけた。
言われてみればその片鱗は少しずつあった気がする。
ラスティがそんなことを考えていると、ジーンが少しだけ困ったように眉を寄せた。
「確かにこちらの不手際もあるだろう。だからこそ、こうしてアドバイスをしてやろうというんだよ」
「自分たちの詰めの甘さを、受験生のせいにしないでよ」
エルディアの言葉はもっともともいえるが、ジーンはさらりと聞かないふりをした。
そんなことはジーンにとってはどうでもいいことだったのだ。
「聞くのかね、聞かないのかね?」
「聞くわよ!!」
このままこの話を引っ張り続けたら、アドバイスとやらを聞き損ねると感じたエルディアはジーンの問いかけに怒鳴り返した。
「おまえ、俺には噛みつくなって言ったくせに…」
「うるさい!!」
ラスティがエルディアの服の裾を引いたが、こちらも一喝されてしまう。
ジーンはやれやれと息を吐きながら、話をつづけた。
「つまり本来の準備時間が不足しているために『竜騎士』候補の体がまだ十分な状態ではないということなのだよ」
「あんたの不手際のせいで、でしょう」
不機嫌に鼻を鳴らすエルディアを、笑って躱すとジーンは裏庭へ続く扉を開いた。
そこには地中から湧き出るお湯をそのまま溜め込むように作られた、小さな池のような温泉があった。
「裏庭に温泉!?」
「この温泉があるから、私はここに住んでいるようなものだからね」
現れた小さな露天風呂にエルディアが思わず羨ましそうな声を上げた。
ラスティはその温泉とジーンの顔を交互に見つめて、首を傾げた。
「この温泉がなんなんだ?」
「このお湯は特別な竜気に満ちていてね…」
エルディアとラスティは目を瞬いた。
ジーンはその笑みを深くする。
「とりあえずショートカットした分、そうだな…1週間ほど、この湯に浸かって竜気を溜めなさい」
「え、そんなんで溜まるの?」
「そのために体は幼い状態に組み替えられているからね」
意味深に笑うジーンに、2人は顔を見合わせた。とはいえ、真偽を確かめる術もないので渋々頷いたが、思わず愚痴がこぼれるのは抑えきれなかった。
「温泉浸かるだけでいいなら、最初から温泉ツアーにしてよ」
「同感だ」




