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「とりあえず、一旦、情報集めはこのくらいにしてご飯でも食べよう」
「ん、そうだな。朝から何も食べてないしな」
軽い空腹を感じて、ラスティはエルディアの提案に頷いた。
よく考えなくても、ちゃんとした食事は久しぶりな気がする。
「そうこなくっちゃ。ねえ、さっきのカフェのご飯、おいしそうだったよ」
「おまえ、カフェなんか興味あるのか!」
「おいしいものは何でも興味あるわよ、失礼ね」
それは食い意地自慢なのでは、と言いかけてラスティは慌てて口を閉じた。
空腹時に余計なことを言って面倒なことになるのはごめんだった。
「ああ、そうかよ。いいよ、そこで」
「やった!」
手を叩いて喜ぶエルディアに、何となく頬が緩む。
それを誤魔化すように、先に歩きだした。
「あ、待ってよ」
「早くしろよ、俺も腹が減ってんだ」
2人が歩き始めると、カフェの方から歩いて来る浮かれたような若い女性たちとすれ違う。
きゃあきゃあと黄色い声が賑やかだ。
それはカフェに近づくほど増えていき、カフェに着いた頃には、店内の女性たちがある一点を見つめて、うっとりと頬を染めていた。
「なんだ、これ…」
「…あれじゃない?」
ラスティはその様子に腰が引けている。
その手を握って、エルディアは空いた手で店内のその一点を指さした。
神々しいとすら言える美貌の青年が、ゆっくりとお茶の香りを楽しみ、カップを唇に当てた。
それだけで、店内からため息が漏れた。
「あいつは…」
ラスティが眉を寄せる。
一度見たら忘れようもない美しさ。
王都の帽子屋で出会った占い師だった。
占い師ジーン・ブルムンはカフェの入口に立っているエルディアとラスティに気が付くと優雅に唇を引き上げて、その菫色の目を細めた。
店内のあちこちで黄色い悲鳴が上がる。
(…呼んでいる?)
エルディアはその目の意味を汲み取ると、嫌そうな顔のラスティの手を引き、ジーンのテーブルに歩み寄った。
「はぁい、色男。お久しぶりね?」
「実に数日ぶりだが、楽しい旅を過ごしているようだね?」
友好的に見える挨拶は、どちらも腹の底が見えない。
ラスティはエルディアを見上げて息を吐いた。
「どうしたの?『伝えるべきことは伝えた』とか言ってたけど、言い忘れ?」
「そうだな、そんなところだ」
エルディアが好戦的に問いかけると、ジーンはさらりと応じて、ラスティに視線を移した。
じっとその顔を見つめて、肩をすくめる。
「なんだ…?言いたいことがあるならはっきり言え」
値踏みされるような視線に神経を逆なでされて、ラスティはその視線を強くした。
エルディアがラスティの手を軽く引いた。
自分は好戦的だったくせに、ラスティには許さない。
それはある意味でとても過保護だったが、エルディアは構わないと思っていた。
「あんたは噛みついちゃだめ」
「なんでだよ」
「なんでも」
占い師ジーンには底知れない違和感がある。
エルディアは警戒を強めたが、同時に試練の見届け人のような立ち位置のこの男を、ラスティが敵視するのはまずい気がした。
2人のやりとりを面白そうに眺めながら、ジーンはその笑みを深くした。
「良い判断だ。なに、ちょっとしたアドバイスに来ただけだよ」
「アドバイス?」
エルディアはラスティを半歩後ろに下げながら、ジーンの真意を探るように目を細めた。
同時に店内の様子に目を配ると、息を吐いて敢えて肩の力を抜いた。
「なあに、占いの結果についてのアドバイス?ラッキーアイテムでも教えてくれるの?」
軽い口調に戻すと、観光客が占い師に占ってもらった結果の確認を装う。
午前中の明るいカフェの店内に合うように、楽しい話をするように。
ジーンはその態度に目を瞬いて、さらに愉快そうに声を弾ませた。
実に面白い人間だと思ったのだ。
「そうだな、今後に役立つ情報だ」
「ありがたいけど、ご飯食べてからでもいい?」
「いいとも。あとで私の『占いの館』に来るといい」
ジーンは、そう言うとエルディアたちが持っていた町の地図を抜き取り、メモを書きつけた。
そして、ゆっくりと立ち上がり会計に向かう。
その後ろ姿を見送りながらエルディアは苦い顔をした。
店内の女たちの視線が痛い。
「まあ、さすがにいくら俺が美少女に見えたとしても代わってやれないからな…」
美貌の青年と親し気に会話をした女に対する羨望と嫉妬の視線に堪えながら、空いているテーブルに着く。
すぐにカフェの店員の女性が水とメニューを持ってきた。
そして、心なしか強めに水とメニューを置く。
「どうぞ、ごゆっくり!!」
ラスティはメニューを見ながら無慈悲に言い放った。
「今後、おまえがこんな風に嫉妬されることもないだろうからいい経験だと思って諦めろ」
「なにそれ!すごく理不尽!!」
好きで目立ったわけでもないのに。
エルディアはふてくされたように置いて行かれたメニューに目を落とした。




