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―――カラン


薬屋のドアベルが軽やかな音を響かせた。

明るい声がエルディアとラスティを迎える。


「いらっしゃいませ」


「こんにちは。のど薬を探しているんだけど良いのはある?」


「あら、風邪ですか?」


先ほどと変わらないやり取りで、薬屋の少女にエルディアはにこやかに尋ねた。

カウンターの少女は小首をかしげて心配そうに眉を寄せる。


「妹がね、ちょっと疲れちゃったみたいだから念のためにね?」


「ああ、でしたらこちらが良いですよ」


並んだ棚の引き出しから、小さく包まれた薬を差し出した。

顔を近づけると少しすっきりした清涼感のある香りが鼻を抜ける。


「お薬っていうより炎症止めみたいなものですが、疲れにも効果がありますよ」


「ありがとう、助かるわ」


「このまま口に入れて、飴のように最後まで舐めてね?」


エルディアに手渡しながら、ラスティに説明する。

ラスティはエルディアの後ろにぴったりくっついたまま小さく頷いた。


「観光で来たんだけど、いい薬屋があって良かったよ」


「それは良かったです。あ、温泉に浸かれば、きっと疲れた体も癒されますよ?」


少女は誇らしげに温泉の効果について説明し始めた。

この町が好きでたまらないということがよく分かる。


「そうそう、この辺の湧水が温水なのって竜脈っていう地脈の影響なんでしょ?」


「そうなんですよ、よくご存じですね?まあ、源泉が多いのはサンダクラプ村なんですけどね」


「ふーん、そっちも気になるわ。行ってみたいなぁ」


エルディアは先ほども耳にした村の名前を、いかにも初めて聞いたような顔で聞いた。

ラスティがもの言いたげな顔をしているが気にしない。


「あの村は、湯治目的の人の方が多いんですよ」


小さい女の子は飽きちゃうかもしれないですよと、ラスティに片目をつぶった。

ラスティはすすっとエルディアの後ろに隠れる。


人見知りの設定に、ラスティは心の中で感謝した。


こういった平民とのやり取りの時、どう応じるべきなのかラスティには判断が難しい。

エルディアに丸投げする気満々だった。


(エルディア相手なら気を使わなくてもいいんだが…)


それはそれで、エルディアに対して失礼なことを考えていたのだが、幸い気付かれることはなかった。


エルディアは薬屋の少女の話に、興味を持ったように質問を重ねた。


「湯治って治療目的ってことだよね?昔からそうなの?」


「ええ。ずっと昔は治療をする修道女たちもいたらしいですよ」


「修道女って神殿とかにいる、あの修道女?」


少しずつ答えが近づいてきているような手応えを感じた。


「ええ。私のおばあちゃんよりもっと前は、サンダクラプの修道女たちと薬草を集めたりしてたらしいです」


「それで、あんたは薬草に詳しいのね?」


「ずっと薬草に囲まれてましたから」


少女のルーツに納得して見せてから、エルディアは首を傾げた。


「でも、その村に神殿なんかあるの?」


「ふふ。大昔ですよ?いまはどこにあったのかも分からないらしいですよ」


それはどこかにあったということだ。

エルディアは唇を引き上げた。


「大昔の神殿なんてロマンチックだね」


「いまはおじいちゃんたちの聖地ですけどね?」


エルディアと少女は顔を見合わせて2人で笑った。


ラスティはエルディアが少女と会話している間、ずっとエルディアを見上げていた。


いくつかのキーワードは確実に求めていた答えなのに、全く顔に出ていなかった。


(面の皮が厚すぎる…)


頼もしいはずなのに、ラスティはつい呆れたような目を向けてしまうのだった。


ただし、欲しい情報はかなり集まったように思える。


どの話も秘密の話などではないのだから、当たり前といえば当たり前だが、順調に集められるに越したことはない。


エルディアとラスティは目を合わせて頷いた。

一通り集めた情報の整理と、今後の予定を擦り合わせる必要がありそうだ。


エルディアは薬屋の少女に支払いをすると、軽く手を振って店を出た。

入ってきた時と同じように、カランとドアベルが軽やかに響いた。



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