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ラスティが風呂に入っている間に着替えたエルディアが、ソファーの上で眼鏡をかけてのんびりしていた。
「お、ようやく出てきたわね?」
ラスティに気付くと手招きをするので、ラスティはその横に腰を下ろす。
「どう?研究者っぽい?」
「…うさんくさい」
眼鏡のエルディアに正直に答えたら、額を弾かれた。
やや意趣返しの気持ちもあったので、額は少し痛むが後悔はない。
ラスティは、ふんと鼻を鳴らした。
「かわいくないけど、まぁ、いいわ。今日は町で情報収集するからね?」
「…当ては、あるのか?」
「うーん、そうねぇ。話を聞きたいのは地元のじいさん、ばあさんだし…となると、やっぱりここね!」
ラスティが黙って見上げるとエルディアは笑って、宿の受付で手に入れた町の地図の1ヵ所を指差した。
白十字の薬のマークがついている。
「年寄連中っていうのは薬屋に溜まりがちなのよ」
「おまえ、子どものことも、年寄りのことも括りが雑過ぎるだろう…」
ラスティが呆れたように目を細めた。
エルディアは自信ありげに唇の端を引き上げる。
「まぁ、行けば、あんたも分かるわよ」
「はぁ。分かったよ…」
「じゃ、朝食も食べたいし、町を見ながら行こう」
エルディアが手を差し出すのでラスティは渋々その手を取った。
「お利口さん!」
「仕方なく、だ!!」
宿を出てブラブラしながら目当ての薬屋を目指すことになったので、少し考えてからラスティはエルディアを見上げた。
「なぁ、ちょっと寄り道してもいいか?」
「ん?いいよ。どこか行きたいところあるの?」
「資金援助の受け取り」
「え、なにそれ!!」
さらりと伝えられてエルディアは目を丸くする。
驚く顔はいつもより少しだけ幼く見えた。
ラスティはしたり顔で顎をあげる。
「教えねぇよ」
「なんでよ!!けち!!」
エルディアは唇を尖らせたが、ラスティに手を引かれて素直に従った。
カフェにある花壇の鉢裏。
オープン前の書店の郵便受け。
謎のオブジェの中心部の窪み。
どうでも良さそうな場所のそれぞれから、ラスティは封筒のようなものを抜き出していく。
「なんでこんなこと、知ってんのよ」
「眼鏡の梱包に使われてた地図に印が付いてたんだよ」
「わぁ…本当に凝り性ね、あんたのお義姉さん」
おまけに素直じゃない。
ここまで協力してくれるなら、もう味方だと宣言して欲しいくらいだ。
それなのに、ラスティも会ったことのないニコラも、恐らくそんな風に自分達の関係を表現しないに違いない。
「王族って面倒だわー」
「どこも、そんなもんだよ」
2人はニコラが隠した金を回収しながら、散歩のようにのんびり歩き、最初に目星をつけた薬局へ向かった。
すると、店までちょうどあと少しという所の角から華やかな笑い声が聞こえてくる。
見れば地元の老婆たちのようだった。
エルディアは薬屋の前でおしゃべりをしている老婆たちに、にこやかに話しかける。
「おはよう。気持ちの良い朝ね、おばあちゃんたち」
「あら、観光の方かしら?」
品のいい老婆たちが笑顔で応じた。
おっとりとした感じはこの温泉地に良く馴染んでいる。
「うん、昨日着いたばっかりなの。でも、妹の喉の調子がよくなくて薬屋を探してるのよ。この薬屋さんって評判良い?」
「あら、この薬屋なら心配ないわよ。妹さん、風邪かしら?」
「ううん。旅行が初めてだからちょっと疲れちゃっただけだと思う」
息を吸うように滑らかに老婆たちの会話に混ざっていくエルディアの後ろにそっと隠れていたラスティは、ひょこっと顔をのぞかせた。
「あら、かわいらしいお嬢ちゃんね?」
どうやら老婆受けも良いらしいラスティは、彼女たちの心を鷲掴みにしたようだ。
目尻をさげて頭を撫でる老婆たちに、戸惑ったような上目づかいを向け、小さな声で礼を言う。
「…あ、ありがとう」
「まあまあ、かわいらしいこと!!」
「本当ねぇ。あ、喉が痛いなら飴ちゃんあげましょうか」
どこかしらで、なにかしらのおやつをゲットする様子は、もはやおやつハンターだ。
エルディアは目をそらして喉を鳴らした。
それに気が付いたラスティは、老婆たちの目を盗んでエルディアの脛を蹴る。
エルディアは痛みを感じながらも笑いは堪えられない。そのまま震える声で老婆たちに礼を言った。
「ありがとう、助かるよ」
「いいのよ。疲れちゃったんならここの温泉でゆっくりするといいわ」
「うん、そうするよ。ねえ、この辺って竜が眠ってるから温泉が湧くんだって本当?」
エルディアがいかにも温泉に興味があるような顔をして老婆たちに問いかけると、老婆たちはコロコロと笑った。
「そうね、そんな言い伝えもあるわ」
「今の若い子は信じないでしょう?」
「ええ、でもそっちの方がロマンがあるじゃない?」
老婆たちの間でも通説か御伽話の類だと認識されているようで、本気にしているようには見えなかった。
この老婆たちはあまり情報にならないかもな、と軽く頭で計算して会話を続ける。
「そうね、それこそ私のお婆さんなんかはサンダクラプ村の出身だったから、本気でそう思っていたわねぇ」
「サンダクラプ村?」
「ええ、この町からちょっと行ったところに小さな村があってね。竜が眠るとかっていう伝承はその村の言い伝えなのよ」
エルディアは素早く頭の中で先ほどの判断を訂正した。
老婆たちの情報は、まさにエルディアの知りたいことのど真ん中だ。
一発で引き当てられるとは運がいい。
「そうだったんだ。そっちのほうじゃ有名な話なの?」
「そうね。あそこの平原には『竜の棲む丘』なんて呼ばれているところもあるし、きっとその関係でそういう話になったんじゃないかしら」
「竜が住んでいたの!?」
大げさに食いつくと、老婆たちは片手を顔の前で振っておかしそうに目を細めた。
よっぽどロマンスが好きなお嬢さんだと思ったのだろう。
「あの平原は竜に形が似ている岩があって、そんな理由でそう呼ばれているって話よ」
「ふふふ。竜が住んでいたら面白そうだけど、さすがにねぇ」
「えー、そうなの。ざんねーん」
エルディアは心底がっかりした顔で話を切り上げると、もう一度礼を言ってラスティの手を握って薬屋に入っていった。




