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ラスティが風呂からあがり部屋に戻ると、エルディアは受付で受け取った小包を開けて難しい顔をしていた。
「さっきの小包か?」
「うん…」
サイドテーブルの前に座ったエルディアはラスティを見上げると、困ったように眉を下げて包みの中に入っていた眼鏡をラスティに見せた。
「ねぇ、これ、なんだと思う?」
「…眼鏡だな?」
「だよねぇ。なんか、意味あるのかなぁ」
エルディアが眼鏡を色々な角度から確認するが、どう見てもただの眼鏡なのだ。
「研究室からっていうからには、なんかの意味があるのかなって思ったんだけど、お手上げ」
ラスティは手渡された眼鏡に目を落とすと、小さく息を吐いた。
「これは、ただの眼鏡だろ…」
「なんで眼鏡をわざわざ…?」
「多分、意味なんかない。…変装でもしろってことだろうよ」
ラスティは濡れた髪を拭きながらソファーに腰を下ろした。
「ええー!こんなに意味深に送ってきて、それだけ!?」
「あの人の好きそうなことだよ。情報の撹乱は義姉上の趣味だ」
「粘着質な上に、悪趣味ねぇ」
エルディアの中の、新聞で見た清楚可憐な王妃の印象がガラガラと崩れていく。
「かけとけば?賢そうに見えなくもないぞ」
「なにそれ、失礼しちゃう!」
エルディアは考えて損したと、小包をサイドテーブルに押しやると、バスルームに向かった。
「あたしも温泉はいるけど、覗いちゃダメよ?」
「覗くか!!」
「あはは。冗談よ」
ひらひらと手を振ってバスルームに入っていくエルディアにラスティは小さく毒づいた。
「ちっ。本当に覗くぞ、クソが」
エルディアの影響なのか、ますます品がなくなってきたラスティは、もう一度濡れた髪を乱暴にタオルで拭いた。
そのまま、無造作に置かれた小包の梱包紙に何気なく目をやる。
眼鏡が割れないように押し込まれたくしゃくしゃの紙は、色褪せたジャンポネイルの地図だった。
いくつか丸がついている場所が目につく。
「本命はこっちか」
ラスティは地図を抜き取りざっと目を通してから、纏めて破ってゴミ箱に突っ込んだ。
そして、ふとベッドルームを見てがっくりと脱力した。
「なんで、ベッドが1つなんだよ…」
風呂からあがったエルディアと、今度はどっちがベッドで寝るかで、またひと悶着するのかと思うと、投げやりな気持ちになる。
「…よし。先に寝ちまおう」
なにか言われる前に、先にやったもん勝ちだ。
早々にソファーに寝転んでくるりと丸まったのだった。
―――翌朝。
柔らかな朝の光に、緩やかに覚醒する。
ふに。
ラスティが寝返りを打つと柔らかいものに触れた。
(ソファーだ。ソファーじゃないわけがない…)
ラスティはその柔らかさとほんのり甘い匂いを全力で否定して、ゆっくりと瞼をあげた。
「だから、なんで!!」
残念ながらいつもの朝だった。
ラスティは、なんとか悲鳴を飲み込み、起こさないようにエルディアの腕から抜け出すと、まっすぐにバスルームに飛び込み頭から水を被った。
(落ち着け、落ち着け、落ち着け!!)
冷たい水で頭を冷やし、大きく息を吐く。
部屋の奥から目を覚ました エルディアが、あくびをしながら露天風呂を覗きに来た。
「あんた、そんなに温泉が気に入ったの?」
「すっごくな!だから、入ってくるな!!」
ラスティに怒鳴られてもどこ吹く風のエルディアは肩をすくめて、手のひらだけ覗かせてひらひらと振った。
「はいはい。ごゆっくり~」
エルディアののんびりとした声に、イラッとしたものの、頭から被った水のせいで今ごろ寒気が襲ってくる。
ラスティは、ふて腐れた気分を慰めるように温かい湯に体を沈めると、長いため息をついた。
「洞窟の野宿の方が、まだましだ…」
ラッキーと言えばラッキーなのかもしれないと、不謹慎な考えがちらつかないわけでもないが、とてもそんな気分になれない。
まだしばらく、こんな朝が続くのかと思うとどっと疲れた。
そんなラスティの気持ちなど、全くお構いなしに、外からエルディアの声が飛んできた。
「ねえー、まだぁ!?」
「うるさいな、もう出るよ!!」
ちっとも落ち着かないまま、ラスティは立ち上がって、部屋に戻るのだった。




