58
第5章、始まりました。
土日は3話公開です。
―――竜に会うならおめかししなきゃ…
遠くでエルディアの歌声が聞こえた気がする。
ゆるゆると瞼が上がる。
暖かい温もりに、身じろぐと柔らかくていい匂いがした。
(…柔らかくて?)
瞬間、ラスティは飛び起きた。
これで何度目になるか分からない、心臓に悪い目覚めだった。
「なんで抱きついて寝てんだ、おまえは!!!」
「んー…、相変わらず朝からうるさいぃ~」
エルディアが面倒くさそうに目を覚ました。
眠そうに目を擦りながらあくびをする。
「あんた、あたしが戻ったときには寝ちゃってたからさぁ」
風邪引かないようにくっついたと、悪びれもせずに言う。
「なに、考えてんだ、おまえは!!」
「こういう時、子供の体温って高くていいよねぇ?」
なにも考えてないに違いない。
ラスティはがっくりと肩を落とした。
(我慢だ…。忍耐だ…、堪えろ…)
呪詛のように自分に言い聞かせる。
昨日、自覚したばかりの気持ちのせいで、とても平常心ではいられないが、そうも言ってられない。王族として鍛え上げた精神力が試されている。
ラスティはなんとか自分を抑え込んだ。
「ねぇ、朝ごはん食べたらすぐに出ようね?」
「分かってる!!」
それでもエルディアの能天気さに怒鳴り付けずにはいられなかった。
エルディアからしたら理不尽だろうが、本物の小さな少年にだってもう少し気遣いは必要なはずだ。
自分は悪くないと言い聞かせながら、用意されたスープに口をつける。
「朝からご機嫌斜めねぇ」
「うるさい、おまえのせいだからな!」
「まぁー、理不尽!」
やいやい言いながら準備を済ませると、2人は早々にドラコニスにまたがった。
「よく眠れた?」
「普通!!」
「あはは!子守唄歌ってやった甲斐があるよ」
なんとなく夢心地で聞こえたのは例の子守唄だったらしい。
ラスティは不満そうに眉を寄せた。
「そんな顔しないでよ。あれって結局うちの精神安定剤みたいなもんなのよ」
「精神安定剤?」
「寝るときにずっと聞いてたから、条件反射でリラックスするの。効率いいでしょ?」
「子守唄まで効率的に使うなよ…」
呆れたように呟いたが、先程よりは心はざわつかない。
子ども扱いされたというより、エルディア自身が落ち着くために歌ったということだろう。
「で、おまえは落ち着いたのか?」
「人間湯タンポもあったし、ばっちり!」
「人で暖を取るな!」
山頂から見える朝日を浴びながら、しょうもないことを言い争う。
そして、一息つくとエルディアは前を向いた。眩しさに少し目を細め、グリップを捻りエンジンを回す。
ゆっくりとドラコニスが動き出した。
登りと同様、露出した路面はガタガタと安定しない。それでもコツをつかんだエルディアは難なく山を滑るように下っていった。
ほぼ1日かけて、ようやく麓が見えてきた。
山頂とうって変わってほんのり暖かいのはそこかしこで湯気を立てている温水のせいだろう。
2人はジャンポネイルの町に降り立った。
山側からも町の入り口があり、観光地らしいアーチ型の門が見えた。
検問らしい検問はないようで、ドラコニスを押して門を潜ると警備員のような男がにこにこと話しかけてきた。
「こんにちは、登山道からですか?」
「うん。山の後の温泉は最高だって聞いたから」
「ああ、それは最高ですよ。こちらに必要事項を記入してお入り下さいね。身分証を拝見します」
記録と証明書の確認という簡単な手続きで、あっさり通ることができた。
エルディアはほっと肩の力を抜いた。
「良かった、まだここを目指してたことは隠せてるね?」
「ゼラックで聞き込まれたらすぐバレそうだけど…それでも私兵じゃ動かせる範囲に限度があるからな」
あくまでも個人的な捜査なら、公的機関を強制的に押さえることはできない。
「それだけは、本当に助かるな」
「言えてるわ」
ぎりぎり公爵側の手の回らない範囲を潜り抜けているという自覚があるので、エルディアは素直に頷いた。
(それでも、あれを切り抜けるというのはなかなかできることじゃない)
ラスティは黙ってエルディアを見上げた。
当の本人はいつものようにのんきな顔をしている。
「よくやってるよ、おまえは」
「なに?なんか言った?」
「別に」
素直に褒めてやるのも癪だったので、ラスティは適当に誤魔化した。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。




