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土日は3話公開です。
ある程度、火が安定したのを確認するとエルディアはラスティに向き直った。
ラスティが気にしている内容には全く興味がないような顔をしていた。
気にしてほしいわけでもないので、ラスティはそこには触れずに首を傾げた。
「なんだ?」
「あっちの地底湖、水は綺麗だったし入るのは無理でも体を拭くにはちょうど良いんじゃない?」
「は?」
エルディアは荷袋の中からタオルを取り出すとラスティに放り投げた。
思わず受け取ると、それを確認したエルディアは立ち上がる。
ラスティがぽかんと見上げるとエルディアが奥を指し示した。
「ほら、拭いてあげるからあっち行こう?」
「は!?ば、バカか、いらねぇよ!」
「なんでよ、汗かいたでしょ?」
エルディアが詰め寄るとラスティは思わず後ずさった。
エルディアに悪気も他意もないことは分かっている。
恐らくギュバンスが一番最初に言った「世話をしろ」を忠実に守ろうとしているのだろう。
ラスティ自身もちょっと煽った覚えがあるので仕方ないといえば仕方ないが。
「そのくらい、自分でできる!」
「え、そうなの?」
真っ赤な顔で拒否したラスティにエルディアはきょとんとした。
少し目を丸くして、小動物みたいな顔になっている。
「言っただろう、野営訓練くらいはしてるんだよ!」
「あぁ、女の子の服が着られないってだけか」
「当たり前だろう!!!」
訳の分からない納得の仕方に、もう一度、声を張り上げて突っ込む。
エルディアは悪びれもせずにタオルを振り回した。
「着替えも何もかも全部って言ったじゃん」
「冗談に決まってるだろうが!!」
ラスティが真っ赤な顔をするので、エルディアが面白そうに目を細めた。
良くないことを考えている顔だ。
いたずらっぽい目で、にんまりと口角を上げた。
「そんなこと言わないで一緒に行こうよ。ついでにあたしの背中も拭いてよ~」
「誰がするか!!っつうか、王族にそんなことさせるな!!」
「ええー、身分を笠に着て感じ悪い~」
完全に遊んでいるエルディアにラスティはムっとして怒鳴り返した。
エルディアは心底楽しそうに笑うと、ラスティの頭をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「冗談だって」
「最悪だな、おまえ」
一通り揶揄って満足したのか、エルディアはラスティを覗き込んで詫びた。
口元がにやにやしているので絶対に反省はしてないだろうが。
「まあ、それでも危ないから一緒に行くけどね」
「…ついてきてもいいけど、おまえが拭く必要ないからな」
ラスティは強く念を押してエルディアと奥の地底湖に向かった。
冷たい水にタオルを浸して固く絞り、体を拭うとそれなりにすっきりする。
先ほどの口論で火照った体も気持ちも落ち着くようだった。
エルディアはラスティが身綺麗になったことを確認すると、自分も持っていたタオルを水に浸して固く絞った。
そのまま上着を脱ぎ始めたのでラスティが慌てて怒鳴りつけた。
「バカ!今、脱ぐな!!!」
「えー、あたしもすっきりしたいんだけど」
「してもいいけど、俺がいなくなってからにしろ!」
ラスティが急いで焚火に戻るのを見つめながらエルディアはまた笑った。
相変わらず、ラスティはお育ちのいいお坊ちゃまだ。
「そんなこと言って、覗かないでよ」
「覗くか!!!」
走っていく背中に声をかけると、速攻で怒鳴り返された。
エルディアはそれを聞きながら上着を脱ぎ捨てて、固く絞ったタオルで体を拭う。
すっきりとした冷たさが心地いい。
そのまま、一晩ここで過ごした後の旅程を頭の中で整理していく。
(まずはジャンポネイル。そこで神殿の聞き込みね)
ゼラックでの聞き込みでも、いまいち曖昧だったのが神殿の存在だ。
そのあたりを確認する必要があるだろう。
エルディアが今後の予定を整理しているころ、ラスティは焚火の前で頭を抱えていた。
(何なんだ、あの女は!!)
町の子どもを装うためにだいぶ言葉遣いを乱暴にはしていた。それでも基本的にラスティの思考は落ち着いていたのはずなのだが、エルディアのせいでそれも怪しくなってきている。
その自覚もないまま、ラスティはぐるぐると思考を走らせていた。
無防備なエルディアの態度が腹立たしい。
誰かと親しくするのも腹立たしい。
仕事に対しての真摯な態度は好ましい。
なんならそのために手段を選ばないところも目が離せないが、嫌いではない。
(嫌いではない…本当に?)
たまに交わす軽口も腹が立つことはあるが嫌ではない。
命を預けることに不安を感じることもない。
あの山腹でエルディアに「どんな女性がタイプなのか」と聞かれたとき、一瞬でも頭を掠めたのは誰だったか。
(嫌いではない…で、すむような気持ちなのか?)
ラスティの顔が熱くなったのは焚火のせいではないだろう。
思わず膝を抱えて、顔を伏せた。
「…嘘だろう」
地底湖からエルディアが戻ってくる足音がする。
どんな顔をしたらいいのか分からずラスティは顔を上げることができなかった。
地底湖の真上の隙間から覗く上弦の月だけが全てを見守るように銀色に輝いていた。




