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休憩を挟みながら荒れた道を進み続け、ようやく山頂にたどり着いた。
橙と紫紺のグラデーションで彩られた夕焼けが美しく広がっている。
その空の色をラスティはどこかで見たような色だと、ぼんやりと魅入っていた。
(そうか…エルディアの目の色と同じだ)
ラスティは空の色に見惚れながら、無意識にエルディアの夕焼け色の目をそこに重ねた。
そこにエルディアの声がかかる。
「ねぇ、あれを見て」
「…?」
「洞窟の入り口が見えるでしょ。今晩はあそこに入ろう」
エルディアは魔導二輪から降りると、ゆっくりとドラコニスを押した。
ラスティが続いて降りようとすると、笑って止められる。
「あと少しだし、乗ってなよ?」
「いい。降りる。尻が痛い」
「そう?ありがと」
体が痛むのは8割くらいは本気だったのだが、エルディアはラスティが遠慮して気を遣ったと思ったようだ。面倒なので訂正はしなかったが。
見つけた洞窟の入り口に入ると、中はひんやりとした空気に満ちていた。
エルディアは出口に近い岩影にドラコニスを停めると中を見渡した。
「奥の方から水の匂いがする。地底湖があるのかも」
「匂いって…犬かよ」
「五感は大事よ、あんたも鍛えなよ?」
野生児みたいなことを言うので、ラスティが苦笑する。
するとエルディアは顎を上げ、説教をするように指を立てて顔の前で横に振った。
「分かってないわね。なんでも、生き残るってことが大事なの。あんたみたいにしょっちゅう狙われる人は鍛えておいて損はないわよ?」
「おまえみたいに野生児にならなくてもちゃんと鍛えてるよ」
エルディアの勝ち誇った顔が気に入らなくて、つい憎まれ口になってしまった。
エルディアは肩をすくめる。
「どうかしらねぇ?お坊ちゃんの五感なんて室内飼いの子犬ちゃんみたいに頼りなさそうよ」
「口を開けば失礼な女だな」
「一応、言っとくけど、あんたもちょいちょい失礼だからね」
お互いに譲らずにグダグダ言い合いながら奥に進んでみると、急に洞窟の天井が高くなった。
岩肌の隙間から零れ落ちた光の先で、目の覚めるような青い地底湖が水面を揺らしていた。
外界から切り取られた神聖な場所のようにきらきらと発光している。
「おお!すごいわね~!」
「確かに…すごいな」
情緒に疎いエルディアさえ感嘆の声を漏らすほどの美しさにラスティも言葉を失う。
だが、その美しさの感動も数秒と持たないエルディアは、ぶるりと肩を震わせた。
「それはそうと、ちょっと冷えるわね」
「山の地底湖は水温も低いというしな。あの水も相当冷たいんだろうな」
「えー、そうなの」
エルディアは地底湖に近づくとそっと手を入れてみた。
刺すような冷たさに、一瞬で手を引く。
「冷た!!」
「言ったじゃないか」
「この湖で汗も流せると思ったのにぃ」
唇を尖らせるエルディアに、ラスティは肩をすくめた。
しかし、エルディアの言う通り湖の近くはかなり冷えた。
「休むのは入口の方にしておこうか」
「こんなところで寝たら風邪をひきそうだしな」
美しい光景ではあるが、一晩過ごすのは無理そうだと判断して休む場所は入口付近と決めた。
そうなるとエルディアの行動は早い。
適当な枝を取りに出かけたかと思うと、すぐに火を起こしにかかる。
その間、ラスティはエルディアが用意したブランケットにくるまれ待機だ。
「枝を拾うくらい、俺だってできるぞ」
「え、別にすぐ終わるからいいよ。そんなことより休憩して」
一応申し出てはみたが、あっさりと却下された。
体力がないのは確かなので不承不承に従う。
(つくづく、この体は情けないな…)
ラスティは目の前でパチパチと音を立てる焚火を見つめながら、差し出されたスープに口をつけた。
それもエルディアがさっさと用意したものだ。
「また、変なこと気にしてるでしょ?」
「…おまえがなんて思おうと、気にしないなんてことはできないんだよ」
「変なところが律儀すぎるのよ」
エルディアは相変わらず何も気にしていない。
だが、それはゼラックの町に到着する前と後では意味が変わってくる。
実際に命に関わるような危険にさらされても動じないのは肝が据わりすぎている。
「図太すぎるだろ…」
「そんなことありませんー」
エルディアは相変わらず大したことなさそうな顔をして、焚火に火かき棒を突っ込んだ。




