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平坦な道を走る時とは全く違っていた。
山の傾斜とむき出しの道は、シート越しにその粗さを2人へ伝えてくる。
常にガタガタと揺れるため、ラスティはエルディアの腰にしがみつくのに必死だ。
一方のエルディアは、普段なかなか走ることのない扱いにくい路面に歓喜している。
「楽しい!!」
おそらくブルックの町でパーツ屋がおすすめした道なら、魔導二輪でも走りやすいようにある程度は均されていただろう。
だが、エルディアが選んだのは、標識さえ立てられていなかった道である。
地元の人間でも木こりや猟師など、山をよく知る者しか通らない古山道だと想像がつく。
揺れる車体を抑え込むようにステップを踏み直し、グリップを強く握る。
前傾姿勢を保ち、バランスを器用にとった。
技術力のすべてを使って楽しそうに山登りをしていたエルディアだったが、中腹に差しかかったところでようやく我に返った。
ドラコニスを停車させて恐る恐るラスティを振り返る。
「あ、…大丈夫?」
「大丈夫に…見えるか…?」
心なしかげっそりしているラスティが、恨めしそうにエルディアを見上げた。
エルディアは気まずそうに目をそらす。
どうやら自分の楽しみを優先してラスティのことを気遣えなかったことは、自覚しているらしい。
「おまえ、配達遅延より暴走運転の方を気にしろよ!」
「ごめんって。でも、ほら見なよ」
エルディアが目の前に広がる景色を顎で指した。
促されてラスティがそちらに視線を向けると、山腹からの景色が青空のもとに広がっていた。
出発地点のブルックの町がおもちゃのように見える。
「…すごいな」
「気持ちいいでしょ!?」
すっきりとした空気のおかげで、遠くの景色まではっきりと見えている。
ラスティはなんとなく王城の方へ視線を向けた。
(兄上は大丈夫だろうか…)
あの兄のことだ。
心配するようなことは何も起きてないとは思うが、つい心配してしまう。
ラスティの視線の先を察してエルディアはラスティの頭に手を置いた。
「大丈夫よ。お兄さんの方があんたより味方に囲まれてるでしょ」
「それは、そうだが…」
「あんたは自分のことを心配しなよ」
エルディアが、わしゃわしゃと髪をかき混ぜるのを、ラスティは鬱陶しそうに手で払う。
不機嫌そうに眉間にしわを寄せて視線を逸らす。
「俺のことは、おまえが責任をもって届けるんだろう」
正面切って言うのが嫌だったのか、そっぽを向いたままだったが、エルディアが目を瞬いた。
「あはは。そうだね、任せておいて!」
「任せるから、運転はもうちょっと考えろ!」
明るく笑うエルディアに、ラスティは照れ隠しのように注文をつける。
それも軽く受け流し、エルディアは改めてラスティの格好を眺めた。
「それにしても、やっぱり男の子の恰好してると男の子に見えるもんだね?」
「してなくても男なんだけどな!」
そこはかとなく失礼なエルディアにラスティは噛みついた。
だが、エルディアは全く堪えた様子もない。マイペースに荷物の中から水を取り出し、カップに移してラスティに差し出す。
ラスティは深く息を吐いて、それを受け取った。
どうせ言ったところで、エルディアはこれっぽっちもラスティの性別について考える気なんてないに違いない。
「分かってるけど、やっぱりピンとこないんだよねえ」
「こなくても覚えておけ」
「はいはい。頭の隅っこに置いておくわよ」
全く置いておく気もなさそうな様子に苛立ちを覚えるが、黙って水を口にした。
何度も繰り返したことを自分に言い聞かせる。
出会ったときから子どもの姿だったんだ、仕方ない。
「パーツ屋のお兄ちゃん、親切で良かったよね?」
子ども服を見て、思い出したのかエルディアは話を変えた。
ラスティの片眉がピクリと動く。
ラスティの服はパーツ屋の男から貰ったものだ。
町で買うつもりではあったが、ただでもらえるならそれに越したことはない。
無駄な出費が抑えられたと、にんまりするエルディアにラスティが刺々しくカップを突き返した。
「ずいぶん、楽しそうだったもんな?」
「ん?ああ、山道用のパーツ、めちゃくちゃ詳しかったもんね」
ラスティには分からない話で嬉しそうに笑う。
町を出てから治まっていた不快感がラスティの胸をざわつかせた。
「ああいうのが、好きなのか?」
思わず口をついた言葉に、ラスティがしまったという顔をした。
幸いエルディアはそれには気が付かずに景色の方を見ながら首をかしげていた。
「えー、タイプかどうかってこと?」
「…まあ」
引くに引けなくなってそのまま話をつづける羽目になる。
ラスティは気まずい顔のまま、曖昧に相槌を打った。
「いや。魔導二輪乗りはパスだな」
「…そうなのか?」
「そう。絶対ケンカすると思う」
意外なエルディアの答えにラスティは目を瞬いた。
現金なことに胸の不快感は治まっている。
「こだわりが強すぎる男はパスだね。親父を見てたら分かるもん」
「おまえの父親?」
「あたしの趣味に口出されたら絶対ブチ切れる自信あるわ」
確かにベルクとエルディアは同じ魔導二輪好きだが、2人が乗っている魔導二輪はタイプが全然異なっていた。
ラスティは出発前に見たベルクの魔導二輪を思い出していた。
「うーん、そうねぇ。男に必要なのは包容力だわ!知らんけど」
「知らないのかよ…」
「あたしの趣味に口出さないけど、あたしに言いなりじゃない男がいいかなあ」
言いながらエルディアは色々と考え始めたが、結局答えは出なかったようだった。
最終的にはなんだかあいまいな理想像を語ってラスティの方を見た。
「あんたは?」
「は?」
「あんたは、どんな子がタイプなの?」
エルディアの問いかけに特別な意味など全くない。
自分が聞かれたからラスティにも聞き返した。それだけだろう。
ラスティはエルディアに問われて初めて、自分がそういうことを考えたことがないことに気が付いた。
王族の婚姻に恋愛感情は不要だと思っていたし、兄のためになるような家門の娘と一緒になるのが良いだろうと漠然と思っていた程度だ。
しばらく考え込んでみたが、ラスティもエルディア同様、大した返事はできなかった。
「面白い女…とか?」
「なにそれ!物語で絶対王族が言うやつ!!」
ラスティの答えにエルディアは爆笑した。
市井では「そんなこと言う男は痛い奴だ」というのが最近の定説らしい。
「なんだよ、それ。そんなこと言われたってしょうがないだろ!」
「あははは。気を付けなよ?ちゃんとほかの理想を考えなよ」
ラスティは美しく清々しい壮大な景色を前にして、しょうもない課題を出されたのだった。
「王家の運び屋」メモ:
ブルック(町)
・カクテルは「ブルックリン」
・ゼラックから南東にある町
・イブルグラム山脈の麓にあり、登山愛好家達の出発地として人気
・登山愛好家が少ないのが悩み




