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多少、様子のおかしいラスティに肩をすくめながらも、エルディアは黙々と作業を進めた。
そして、手際よくドラコニスのカスタマイズを終える。
「よし、完璧!ますます頼りになる男前になったわ!!」
エルディアは立ち上がって満足そうにドラコニスのシートを叩いた。
ラスティは相変わらず面白くなさそうな顔で鼻を鳴らした。
(まぁ、ドラコニスの方がこっちの男よりはまだマシか)
何が「まだマシ」なのかは深く考えない。
なんとも往生際が悪いが、気にしないようにしてラスティも立ち上がりエルディアを見上げた。
「じゃあ、もう行くか?」
「そうだね。食料も買ってあるし。ちょっと着替えたらそろそろ出掛けようか」
「着替え…?」
「さすがにワンピじゃ山は無理だしね」
2人の様子はハイキングを楽しみにしている姉妹にしか見えない。
男は、にこにことエルディアに請求書とビスケットの袋を手渡した。
「はい、これが料金な。こいつはおまけだよ」
「やった!悪いね。ありがとう」
エルディアが遠慮なく受けとると、ラスティはまた不満そうな顔をした。
男は苦笑しながらラスティの頭を撫でた。
「大丈夫だよ、お姉ちゃんを取ったりしないって」
「…そんなことは気にしてない」
手を叩き落としてエルディアの背後に回った。
エルディアはやれやれと息を吐いて、男にもう一度詫びた。
「ごめんね、いつもはこんなんじゃないんだけど」
「はは、良いって。じゃあ、2人とも楽しんでな」
「ありがと。古いタイヤはそっちで処分して良いからね」
最後にエルディアが告げると、軽く笑って承諾してくれた。
さらにエルディアたちの会話を聞いて、ちょうど店にあった子ども服を持ってきてくれた。
「うちの甥っ子のおさがりだけど、これも処分する予定だったんだよ」
「くれるの?」
「子ども服をこれから探すのも手間だろ?よければ、だけど」
全く、親切で爽やかな、いけ好かない男だった。
ラスティはぐっと眉を寄せる。
だが、エルディアは二つ返事でそれを受け取り、さっさとラスティに着せてしまった。
エルディアが手を振り店を後にする。
男は気の良い笑顔で最後まで見送ってくれた。
少し距離を置くと、ラスティの頭も冷えて、だんだんと居たたまれなくなってくる。
(平民相手になにをやっているんだ、俺は…)
ラスティは自分の態度の大人げなさに息を吐いた。
「あんた、今日はえらくご機嫌斜めね。気を張りすぎて疲れた?」
「疲れてない」
「そう?なら良いけど…」
気遣うようなエルディアの目から逃げるように、ラスティはドラコニスに飛び乗った。
「準備が問題ないなら、早く行こう」
「ん?そうだね。あたしの『ドラコニス・マークII・改』に驚くがいいわ!」
「おまえのネーミングセンスはどうなってるんだよ」
エルディアは、機嫌良くドラコニス改にまたがるとグリップを捻った。
ドラコニスは緩やかに走り出し、町を徐行する。
山道に続く門を潜り抜けるとすぐに山道に差し掛かった。
幾つかの方向に分岐しているので、ここがスタート地点になるのだろう。
一度、地面に足をついて周りを見渡すと、エルディアがにんまりと目を細めた。
初めての道。
それも普段は走らないような山道に浮かれた様子を隠す気もないようだ。
タイヤが路面をしっかりと捉えていることを確認してグッとペダルに足をかけた。
「それじゃ、行くよ。揺れるからしっかり捕まってんだよ?」
エルディアはラスティに声をかけると、教えられた初心者用のコースでも、バイク用のコースでもない標識のない道へ突っ込んだ。
「おい!大丈夫なのか?」
「大丈夫!頭の中に叩き込んだ!!」
親切なパーツ屋の店員の恩を仇で返すように、エルディアは迷わずにジャンポネイルに向かう難易度の高いコースを一直線に走り出した。
「町の人たちにもお兄ちゃんにも悪いけど、こっちも追われてるからね」
そう言って山道を走るエルディアの目がギラギラと光っている。
「絶対、おまえの趣味だろう!!」
「黙ってなさい、舌を噛むよ!」
実益と趣味を兼ねているとしか思えないライディングにラスティはしがみつきながら、必死に怒鳴り付けた。
だが、その声は暴れ馬のように興奮しているエルディアの耳には、残念ながら届かなかった。
新しいパーツを組み込んだドラコニス・マークII・改の豪快な走りにエルディアは、思わず歓喜の声を上げて、さらに速度を上げるのだった。
気性の荒い軍馬に騎乗したときだってこんなに揺れなかった。
ラスティは振り落とされないようにするのが精一杯だった。




