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「いらっしゃい、何をお探しだい?」
屋台の男の言った通り、登山家が主な客層なのだろう。
早朝にも関わらず、その店は営業を始めており、エルディアたちが入ってきたのを見ると気持ちよく声がかかった。
ニット帽を被った若い男が、にこにことエルディアに用向きを聞いてくる。
ラスティはいつものようにそっとエルディアの影に隠れる。
エルディアはラスティの手を握りながら、愛想よく男に返事をした。
「あの山を越えてジャンポネイルに行こうと思ってんだけど、地図とかある?」
「ジャンポネイルに?そりゃ、あるけど小さな女の子が一緒なら無理しない方がいい」
行き先を聞いて、いかにも案内のプロらしく眉を寄せた。
エルディアは仕方なさそうに肩をすくめる。
「そう?じゃあ、それはまた今度にするよ」
「その方がいい。そっちの子も一緒に楽しむならこの辺の道がおすすめだよ?」
いくつかの地図の中から、比較的穏やかな楽しみやすいコースの案内を出してきた。
エルディアは軽く目を通すと、笑って頷いた。
「楽しそうだね?」
「ああ。あの魔導二輪で行くんだろ?気持ちいいよ?」
目敏く店の外に停めたドラコニスに目をやって片目を瞑った。
商売上手な男にエルディアはますます嬉しそうな顔をした。
仕事のできるやつは、どの仕事でも好ましい。
「ありがと。あ、次に来るときの参考にしたいから、ジャンポネイルに行く方の地図も頂戴」
「はいはい。装備に必要な一覧も載ってるから参考にしな」
「至れり尽くせりだね」
店主から2つの地図を受け取り、料金を手渡す。
それと同時に隣にあるというパーツ屋のことを確認する。
「魔導二輪を山道用にカスタムしたいんだけど、隣のパーツ屋はもうやってるかな?」
「ああ、そのパーツ屋もうちの店だよ。いま、開けてやるよ」
エルディアが抜かりなく山に入る準備をしようとしているのを聞いて、男は目を細めてカウンターから出てきた。
「最近は、碌な整備もしないで飛ばすやつも多いから、あんたみたいにちゃんとしてるやつは大歓迎だ」
「そんなやついるの?信じられないね、楽しいことの5割は損してるわ」
「同感だ」
同じテンションで話しているところを見ると、この男もきっと魔導二輪オタクだ。
そう思ってラスティが男を見上げると、はたと目があった。
ラスティに目線を合わせるようにしゃがんで、男はラスティの頭を撫でた。
「お嬢ちゃんはこんな話は興味ないか?」
「別に、そんなことない」
ムッとしてその手を振り払った。
あからさまに愛想の悪いラスティにエルディアは目を瞬いた。
たとえ機嫌が悪くても、基本的には猫を被っているので、見知らぬ人にこんな態度をとるのは珍しい。
「なに、どうしたの?」
「別に…」
男から離れてエルディアの後ろに回り込んでしまった。
男はエルディアを見上げて苦笑した。
「あれ?俺、けっこう子ども受け良い方なんだけど、嫌われちゃったかな?」
「ごめんね、人見知りなの。あんたが男前だから照れてるのかもね?」
「ちがう!!」
エルディアは当たり障りない言葉で男に詫びる。
適当な言い訳だと分かっていても、ラスティは思わず声を上げてしまう。
それが照れ隠しに見えたのか、男は気にすることもなく、笑顔でラスティから離れた。
「年頃の子は難しいもんなぁ」
「そうそう」
「だから、ちがうって!!」
そのまま話を進められて盛大に機嫌を損ねたが、憎たらしいことに2人は全く意に介さず、隣の店の整備場へ移動する。
「フロントは減衰力を上げて、リアは硬めのスプリングに変えたいの。あとタイヤかな、良いのある?」
「もちろん。こいつはグリップ力も抜群だし、おすすめだよ」
相変わらず何を言っているかさっぱり分からなかったが、なんとなくこの男と2人にしたくなかった。
ラスティはせっせとドラコニスをメンテナンスするエルディアの隣にしゃがんで、その手もとを見つめていた。
「本当にお姉ちゃんが好きなんだな?」
微笑ましく店の男に声をかけられたが、ラスティは大人げなくそっぽを向いた。
「そんなんじゃない」
「あれぇ?やっぱり嫌われてるのかなあ、俺」
男に非があるわけではないのだが、それも教えたくなくて、つーんとそっぽを向く。
「あんた、本当にどうしたのよ?」
エルディアは半目でラスティを窘めて、男に「ごめんね」と詫びた。
「思春期は難しいなぁ」
男は気にした風でもなく笑った。




