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ゼラックからブルックに続く道を、休憩を挟みながら夜通し走り抜けた2人の前に町の門が見えてきた。
簡素な造りの門は町の入口以外の意味を持たず、朝も早いせいか人影もない。
エルディアはなるべく大きな音を立てないように、ゆっくりとドラコニスのスピードを落とし門の手前で一度停車した。
「早朝だし、静かなもんだね?」
「そうだな」
後部座席から飛び降りたラスティは、町の向こうに見えるイブルグラム山脈を見上げて目を細めた。
雄大な山に包まれるようなブルックは、ゼラックに比べるとかなり小さい町だった。
地図で確認するよりもずっと小さな町の入口の門を、エルディアはドラコニスを押しながらさっさとくぐると、山を見上げるラスティに声をかけた。
「なにしてるの?行くよ」
「…分かってる」
2人が町の中心部に差し掛かるとだんだんと賑やかになってきた。
入口付近では人影もないと思ったのだが、町の広場で朝市が行われていたようだ。この時間はみんなここに集まっていると言った方が正しいようだ。
「朝市か!」
「みたいだな」
エルディアとラスティは何食わぬ顔で、市場の中を歩き適当に朝食になりそうなものを見繕って回る。
野菜や果物、ちょっとした軽食。
町の出入り口の静けさとは打って変わった喧騒にエルディアの心も浮かれてくる。
「楽しくなってきた!」
「単純だな」
「いいのよ、こういうのは楽しんでおかないと!」
この町に来る前に落ち込んでいたのは、もう吹っ切れたらしい。
明るく笑うエルディアにラスティも釣られて笑った。
すると、軽食を買った屋台の男からすぐに声がかかる。
「お、お嬢ちゃんかわいいな!」
「あんた、ここでも大人気ねぇ」
「なぁに、おじさん?」
自棄になって、かわいらしく小首をかしげると、男は眉を下げて目元を緩めた。
飴でコーティングしたフルーツを差し出してくる。
「お嬢ちゃん、かわいいからおまけだ!」
「相変わらず、コスパ良いわね~」
全くうれしくないエルディアの誉め言葉に、ラスティは一瞬イラっとしたがすぐに男にお礼を言う。そしてぴょこっと顔を下げると、上目づかいでもう一つおねだりした。
「お姉ちゃんの分も、ちょうだい?」
「おお!悪い悪い。ほら、姉ちゃんの分だ」
「ありがとう、おじさん!」
嬉しそうに受け取ってエルディアに渡す。
きょとんとエルディアが受け取ると、ラスティは鼻で笑った。
「おまえじゃ、貰えないだろうから代わりに貰っておいてやった」
「わー、かわいくなーい!!」
とにかくプライドを犠牲にしてでもエルディアにやり返さないと気が済まなかったらしいラスティが満足げな顔をした。
エルディアは鼻の頭にしわを寄せたが、一連のやり取りは男の耳には届かなかったらしい。
「お姉ちゃんたちは、登山かい?」
「んー、考え中なんだよね。来てみたけど、結構険しい山なのかな?」
「いや、道さえ選べばそっちのお嬢ちゃんでもハイキング気分で登れる場所もあるよ?」
人のよさそうな顔でエルディアたちに山の案内をしてくれた。
イブルグラム山脈を構成する山は初心者向けから上級者向けまでさまざまなレベルに対応した登山道を持っているらしい。
ブルックは登山愛好家たちに人気の町なのだという。
「まあ、山登りが趣味ってやつは数が限られているから、町の規模もこんなもんだがね」
自虐気味に言っているようだったが、地元愛が伝わる顔をしていたので自慢の町なのだろう。エルディアは楽しそうに頷いた。
「そうなんだ。詳しい地図とか売ってるところがあるの?案内所とか」
「ああ、あるよ。あの道の突き当たりにある店がそうだよ」
「ありがとう」
「おお、そうだ。お姉ちゃんみたいに魔導二輪で飛ばしたいやつも来るからパーツ屋もその隣にあるよ」
エルディアの目の色が一瞬で変わった。
ドラコニスを自立させると、前のめりにぐっと男の手を両手で握り、これでもかと上下に振る。
男は急に近寄ってきたエルディアに驚いて、思わず一歩下がった。
「そうなの!?なんって、いい町なの!すごい、最高!イカしてる!!!」
恐ろしく少ない語彙力でぐいぐいと男に詰め寄るエルディアを止めたのは、背後からのラスティの蹴りだった。
「やかましい!人に迷惑かけるんじゃねぇ!!!」
美少女の思わぬ野蛮な行動に、今度は別の意味で男は目を白黒させる。
後ろから蹴りつけられたエルディアは、地味に痛かったらしく太ももをさすった。
「あんたねぇ…」
「いいから、行くぞ!」
なにもあんなに顔を近づけなくてもいいだろう。
ラスティの怒りの根っこの部分が微妙に甘酸っぱい気配を纏っていたのだが、生憎それに気づくことができる者はここにはいない。
ただ、軽食を売っていた男だけがしみじみと感心していた。
「…似てないと思ったが、姉妹だったんだなぁ」
よく似たがさつな姉妹と認定して、騒ぎながら店に向かっていく2人の背中を見送った。




