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土日は3話公開です。
密かに脱出した王都の時とは異なり、かなり派手に町を飛び出した2人だったが、背後からの追っ手の気配がないことを確かめると、エルディアはドラコニスのスピードを徐々に落としていった。
ようやく安定したスピードに戻ったドラコニスの上で、ラスティはしがみついていた腕の力を僅かに抜いた。
張り詰めた空気を少し緩めて、エルディアはもう一度だけ軽く背後を気にする様子を見せた。
「…巻いたかな?」
「多分な…」
ラスティは小さく相槌を打つ。
王都で小賢しく撹乱したのも効いているのだろう。
派手に向かった方向に進むとは限らないと、勝手に警戒してくれた可能性もある。
「こういうのは積み重ねだからな…」
今回は偶然だが、うまく混乱してくれることを期待し、ラスティは後ろを振り返った。
小さくなるゼラックの町に少しだけ名残惜しい気持ちが混ざる。
楽しみ損ねたことを残念だと思っている自分に気づいて思わず苦笑する。
「また、来ようね?」
「…そうだな」
同じように感じたのか、エルディアが声をかけてきた。
叶うといいと願いながら、ラスティは軽く頷いた。
とはいえ、まずはゼラックから距離をとり、安全の確保だ。
そう切り替えて、ラスティは前を見据える。
それを背中で感じたエルディアが、話題を変えた。
「あんた、ブルックは行ったことある?」
「いや、その町はないな」
王都から見て東側に連なるイブルグラム山脈。その麓の小さな町ということしか分からない。
エルディアの方も似たり寄ったりで、ゼラックで購入した地図で位置が分かる程度だった。
「ジャンポネイルに行くならゼラックから街道を通ったほうが良いんだけど…」
「ヴァランに追い付かれたのは面倒だな…」
「うん。東の主街道だからね。ゼラックに追いつかれたんなら、もう手が回ってる可能性があると思う」
エルディアの言葉に、ラスティは舌打ちした。
おそらくエルディアの懸念は外れていない。
「それも含めて、ブルックで予定を組み直そう」
「ああ…」
(それで予定を、街道を外れた小さな町に変えたのか…)
エルディアの思惑を正確に読み取り、ラスティは頷いた。
そのことに異論はない。
月明かりだけが頼りの暗い街道だったが、エルディアのドラコニスは危なげなく走り抜ける。
エルディアの腰に手を回したまま、ラスティは重い空気を変えるように話を変えた。
「にしても、さすがというべきか?…夜道も問題なしだな?」
「あたしのドラコニスに走れない道はないよ」
王都でも聞いたエルディアの自慢げな声にラスティは小さく噴き出す。
そしてわざとらしく大げさに息を吐いて釘を刺した。
「頼むから安全運転にしてくれよ?」
「うちは、もともと『安心安全』なの!」
緊急事態が続いただけだ。
エルディアが不本意そうに口を尖らせた。
「そういうことにしておくよ」
「そうなのよ!」
王都からゼラックへ向かった際に見せた暴走は、とても「安心安全」をモットーにしているやつの走りではなかった。
ラスティはその事を思い出しながら、口元を緩めた。
(仕方ないから、目を瞑ってやるか)
エルディアはラスティの緊張が緩んだのを背中越しに感じ、自分の体の力も少し抜いた。
そのまま運転をしていたが、らしくもなく申し訳なさそうな声を洩らした。
「ルートが結構変わっちゃうね、ごめん」
「…謝る必要ないだろ?」
謝るというなら他にもっと謝るべきことがあるはずだ。
ラスティにとってエルディアはだいたい全部失礼だったので余計そう思うのだろうか。
(それも別に嫌だった訳じゃない…)
ラスティはラスティで、腹が立つことと嫌悪することは別だという面倒な感情を持て余していたので、エルディアの小さな謝罪に困惑した。
「荷物の遅延なんて運び屋としては失格だわ」
何だかよく分からない理由で落ち込んでいるらしい。
だが、その言葉を聞いてラスティは鼻で笑った。
「荷物の指定日を間違えてんじゃねぇよ」
「指定日…?」
「『儀式までに』だろ?しっかりしてくれよ」
エルディアはそのまま押し黙った。
その様子にラスティは呆れたように目を細める。
確かに予定は変わった。
だが、エルディアの状況判断力と対応力は十分優秀だ。
エルディアなら必ず決められた日までに目的地への到着を間に合わせるだろう。
ラスティはそう判断している。
エルディアだって、そこには自信があるはずだ。
だとすると、これは約束したにもかかわらず、また暴走運転になってしまったことを謝りたかったのだろう。
(それも見当違いだが)
ラスティが、つまらなそうに鼻を鳴らした。
「あの状況なら仕方ない。その判断ができないほど無能じゃない」
「けど…」
「俺とおまえは対等なんだろ?」
エルディアに言われた言葉をそのまま返した。
「変に遠慮されたら、やりづらいんだろ?」
黙って聞いているエルディアに畳み掛けるように重ねる。
「いちいち気にするな。構わない」
ラスティがはっきりと言い切ると、エルディアの背中がピクリと動いた。
僅かな変化は、しっかりと抱きつく体勢で後部座席に座るラスティには筒抜けだ。
それも分かっているので、余計に気恥ずかしくなったのか、エルディアは茶化すように笑った。
「依頼主が男前過ぎるわ」
「やっと気がついたか、ばーか」
「…やっぱり、かわいくない」
珍しく静かに走り続ける2人を朝焼けが包み始める。
目的の町、ブルックが遠くに見えてきた。
「王家の運び屋」メモ:
ゼラック(町)
・カクテルは「サゼラック」
・ライヴィス王国の東の要衝の町。
・王都に向かう時は必ず通る町で常に賑わっている。
・おいしい焼き鳥屋が多く、小さな子どもには虹色のわたあめが人気。
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