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土日は3話公開します。
めぼしい情報を収集したと判断したエルディアは、ラスティにこっそり耳打ちする。
「お腹いっぱいになった?」
「なったよ…おまえ、飲み過ぎじゃねぇの?」
「何言ってるの!飲みたかったけど我慢したわよ!」
意外な言葉にラスティは目を丸くした。
エルディアが言うには、エールっぽく見えた飲み物は、ただの色付き炭酸だったらしい。
「素面の人間に酔っぱらいが心を開くわけないでしょ」
「っていうか、素面だったのか、おまえ」
どちらかというとそっちの方が驚きだが、店に入って初めのオーダーの時に金を多めに握らせて、酒を飲めないことを大目に見てもらっていたらしい。
「小っちゃい女の子が一緒だからごめんって、あっちの奥さんの方にね」
「そんなことできるのか…?」
「儲けにならないから普通はやってくれないよ。あんたが美少女だったから察してくれたの」
しれっとそんなことを言うエルディアにラスティは嫌そうに顔をしかめた。
酒場の女性に何を心配されたのか気になったが、考えないことにする。
「あとは、マジで後でかかった費用は王室負担にしてよ?」
かなり切実な顔で念を押してきたので、まあまあ金を掴ませたのだろう。
ラスティは、それには苦笑しながら頷いた。
「分かってるよ。ていうか本当に飲まなかったのか?」
「飲まないよ。まだドラコニスに乗るかもしれないじゃん」
エルディアの目が少し強くなった。
ラスティの手を握ると、酒場の大将と奥さんに礼を言って席を立つ。
「店を出たら、すぐにドラコニスに乗るよ」
「すぐに?」
「悪いけど、すっごい飛ばすから振り落されないでね?」
いかにも機嫌のいい笑顔で店を一歩踏み出すと、ラスティを引いてドラコニスまで一気に走った。
「おい…!?」
「いいから、走って」
短い切迫した声に弾かれるようにラスティはとにかく走り出した。
考えている間はないのだろう。そう判断して自分の理解は後に回す。
店に入ったときは夕暮れ手前の赤紫だった空も、今は冴え冴えとした銀の月が浮かんでいる。
駐車場はすっかり暗くなっていた。
見通しの悪い薄闇の中、停めていたドラコニスにたどり着くと、ラスティを後部座席に持ち上げ、エルディアも素早くまたがった。
グリップを捻りエンジンを回す。
そしてステップを踏み、勢いよくペダルを爪先で掻き上げた。
まるで王都の神殿から飛び出した時のようだった。
(いや、あの時よりも緊張している?)
腰に回した腕に伝わる体の硬さが、エルディアの糸を張ったような緊迫感をラスティに正確に伝えていた。
ラスティはぎゅっと力を込めてしがみついた。
ドス!!!
ドラコニスが飛び出すと同時に、背後から鈍い音がして地面にボーガンの矢が刺さった。
それに見向きもせずにエルディアが車体を思いきり傾けて、進行方向を無理やり変える。
「ヴァランの追っ手か!!」
「行くよ!!」
鋭い声と、高いドラコニスのタイヤの軋む音が暗くなった周囲に響いた。
エルディアは雑貨屋で買ったばかりのゼラックの地図を頭に思い浮かべる。
初めての町だが、使えそうな道筋は覚えている。
(運び屋、なめんなよ!!)
エルディアが乾いた唇を舐めた。
薄く引きあがった唇と爛々と光る目が、この状況に怯んでいないエルディアの心境を如実に表していた。
「ぶっち切ってやるわ!!!」
「お、おい!!」
とんでもないスピードで走り出したドラコニスを操るエルディアにしがみつきながら、人通りがなくなった夜で良かったと、ラスティは見当違いなことを考えて体にかかる負荷に耐える。
「逃すな!」
「捕まるか、ばーか」
背後からの追っ手の声にエルディアが小さく呟く。
王都では捕獲を目的とした追跡だったのに、ゼラックでは様子が異なっていた。
追いつくことを目的としていない。
道に伸び出た木の枝も利用し、蛇行を織り交ぜた絶妙に狙いを定めさせない走りで、飛んでくる矢を躱しながらエルディアは確信した。
(…殺しても構わないと思っている!!)
狭い道の低い看板を盾の代わりにし、吊るされた住宅地の布を目くらましに使い、細道と裏道をこれでもかと利用してゼラックの町を飛び出した。
(あー!!夜中に暴走音立ててごめんなさい!!!!)
唯一、申し訳ないのはこのことだった。
安全安心のカシスウェルとしては大変心が痛んだ。
背に腹は代えられなかったので大目に見てくれと、誰に言うわけでもなく心の中で言い訳をして、エルディアはゼラックを通る主街道から少し外れた道へドラコニスを走らせた。
「ど、どこ…にっ…」
「黙ってて、舌かむよ!ブルックに向かう!」
ラスティが無理やり声を出そうとしたが、エルディアに遮られた。
エルディアが目指しているのは、ゼラックから東南方向にある山麓の町ブルックだった。




