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「はいはい。かわいい顔して汚い言葉を使わないの」
「おまえが言うな」
ラスティが覚えた汚い言葉はほとんどエルディアが使ったものだ。
自分を棚にあげて何を言うのかと、鼻で笑う。
「あんた、あたしをかわいいって思ってたのね、いがーい」
「そっちじゃねぇ!!」
エルディアがわざと見当違いな返事をすると、ラスティは顔を赤くして噛みついた。
「やぁね、冗談じゃないの」
「ふざけんな、くそ!」
軽く言い合いながら、エルディアは店の扉を開く。
カランという音が響いた。
「いらっしゃい」
雑多な店の奥から丸い眼鏡をかけた男が顔を出す。この店の店主だろう。
仲の良さそうな2人組に愛想よく声をかけた。
「なにかお探しかい?」
「この町の地図と周辺の地図がほしいんだ」
「周辺ってどのくらいの範囲?」
店主が話しかけると、ラスティはさっとエルディアの影に隠れる。
これだけで相手が勝手に勘違いすることは、先ほどの検問所でも確認済みだ。
「ごめんなさいね、妹は人見知りで」
「いやいや、かわいらしいじゃないか」
案の定、店主は疑うこともせずにエルディアと話し始めた。
「ジャンポネイルまで行きたいのよ」
「ああ、あそこは温泉地だからな」
目的地を告げると、店主が納得したように奥から地図を引っ張り出してきた。
「温泉地?」
「なんだ、知らないで行こうと思ったのかい?」
「知り合いに良いところだっておすすめされてね。どんなところかはこれから調べるつもりだったの」
エルディアは適当に話を合わせて、この店主から情報を引き出すことにした。
「なるほど。まあ、知る人ぞ知る場所だからな」
「そうなんだ?で、温泉ってなに?」
店主が地図を広げて、ジャンポネイルのすぐ脇を指し示した。
「ここに地元では竜脈って呼ばれている地脈があるんだよ」
「へぇ?」
「この竜脈の影響で、ジャンポネイルは地面を掘ると温水が湧き出るんだ」
エルディアとラスティが「竜脈」という言葉に僅かに反応したが、すぐに誤魔化した。
「温水って泥水じゃないの?」
「石を組んだ広い浴槽に綺麗な温水を溜めてるんだ。手足も伸ばせて気持ちいいもんだよ」
店主は温泉に入ったことがあるようで、思い出すように目を細めた。
そして、ゼラック周辺からジャンポネイルまでの範囲が網羅されている地図をエルディアの前に差し出した。
「これが一番詳しいな。ここからの行き方も分かるようになってる」
エルディアが地図を覗き込むと、確かにゼラックとジャンポネイルの周辺の道が分かるようになっている。
「いいね」
「旅行用ってわけじゃないから、山道まで載っちまってるが、こいつが一番詳しいよ」
「助かるわ」
エルディアは軽く礼を告げて、店主がおすすめしてくれた地図とゼラックの町の地図を購入した。
「そうそう、あたしたちゼラックも初めてなの。この町のおすすめはある?」
観光客のような気楽さで尋ねると、店主は嬉しそうにいくつかのおすすめを教えてくれた。
「ジャンポネイルもいいところだが、その前にうちの町の焼き鳥は絶対に食べていってほしいな」
「焼き鳥あるんだ?いいね!」
「お嬢ちゃんには綺麗なわたあめなんかもあるんだよ?」
ぴったりとエルディアから離れないラスティにも優しく声をかけてくれた。
「……ありがとう」
恥ずかしがり屋の少女からの小さなお礼に、店主は顔をほころばせた。
「虹色のわたあめで、お嬢ちゃんみたいな可憐な子にはぴったりだ!」
店主はかわいい少女を誉めちぎっているだけだが、ラスティはますますエルディアにくっついた。
その肩が震えているのは、恥ずかしさを我慢しているのだろう。
店主が思っているのとは別の羞恥心だ。
「あはは。ありがとね?」
ラスティの代わりにエルディアが軽く返事をして、そろそろ我慢の限界っぽいラスティを店から連れ出した。
そして、宥めるように肩をたたく。
「褒められたんだし良いじゃない」
「良くない!ちっとも、良くない!!」
ぷるぷると震えているのは怒りではない。
それが分かるだけにエルディアは、ラスティの頭を軽く撫でて機嫌を取るように覗き込んだ。
「折角だし、わたあめ、買ってあげようか?」
「いるか!!」
残念ながらエルディアの気遣いは、結局火に油を注ぐだけで終わった。




