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街道脇の平地で一晩過ごしたあと、再びドラコニスはゼラックに向かって走り出した。
よく晴れた空が、高く澄んでいる。
「気持ちの良い朝にドライブなんて、最高ね!」
「おまえは本当にのんきだな」
昨日の暴走と打って変わって、会話ができるほどの安全運転だ。
「あんたがゆっくりって言うから、そうしてるんじゃない」
「運転の話じゃねぇよ」
のんびり話しながら進む様子は、街道ですれ違う者たちの目にも不自然には映らない。
要衝の町、ゼラックに近づくにつれてだんだんと人の流れも多くなってきた。
「結構大きな町なんだよね?」
「全体としては中規模だが、おまえの住んでた町よりは少しでかいかもな」
「うちは王都がメインの運び屋だから、あたし、ゼラックは初めてなんだよね」
どうやら本当に楽しみらしく、適当な鼻唄を歌いながら、浮かれた様子でハンドルを握っている。
「情報も人も多いから、賑やかだぞ」
「あんたは行ったことあるの?」
「ああ。何回かな」
王都の周りの重要拠点は、視察も兼ねて一通り訪れている。
そう言うとエルディアは、なるほどと頷いた。
「ってことは、やっぱりヴァランたちもゼラックには詳しそうだね?」
「…そうだな。少なくとも各方面の要の場所くらいは、警戒しているだろうな」
「じゃあ、町に着いたらまず地図を買わないとね」
運び屋の武器は「道」そのものだ。
エルディアは新しく手に入れる地図のことを考えて、心を踊らせた。
「おまえ、本当に楽しそうだな…」
「走ったことのない場所を走るのは楽しいよ!」
「はは…そりゃ、なにより」
いつまでたっても緊張感がない。
これはもう、最後までこのままだな。
いい加減ラスティもそこは諦めたが、一応釘は刺しておく。
「気を抜くなよ?」
「分かってるって」
「…あと、丁寧に扱えよ?」
誰をとは敢えて言わなかった。
―――返事がない。
ラスティは呆れたようにエルディアの服を引っ張った。
「返事がない」
「運転中に引っ張らないでよ、危ないでしょー」
「返事!」
あくまでも返事をしないエルディアに、もう一度告げる。
するとエルディアは面倒くさそうに、嫌々と返した。
「はいはい」
「『はい』は一回!」
「はぁーい」
いまいち信用ならないが、言質を取ったのでひとまず良しとする。
ラスティが小さく頷くと、目の前に、城壁に囲まれたゼラックの西門が見えてきた。
「あの町はそれぞれの入り口に検問所を設けてるんだ」
「そうなんだ。いけるかな?」
「まだ、いけるだろ。ヴァランの手の者は追い付いてないはずだ」
王都で逃走ルートを撹乱したことはもちろんだが、エルディアのあのめちゃくちゃなスピードを追い越して、町まで伝令を飛ばせるとは思えない。
ラスティはそう結論付けた。
「了解。通行証はあたしが持ってるし、お子さまはパスできるから問題ないね」
「お子さまって言うな」
「あんたはあたしの妹ってことでよろしくね」
「おまえの妹がこんな美少女じゃ、疑われるだろうが、仕方ないな」
ほぼ自棄になってラスティが了承した。
「あんた、本当に生意気ね」
「おまえに合わせてるんだよ」
喧々囂々と言い合いながら、検問所の前に到着した。
エルディアは速度をゆっくりと落とすと、軽やかにドラコニスから降りる。
ラスティも車体が安定したのを確認して飛び降りた。
検問所から伸びる列の最後尾にドラコニスを押しながら2人で並ぶ。
ラスティは顔を見られないように俯き加減でエルディアの服の裾を掴んだ。
「かわいいお嬢ちゃんだな?」
後ろに付いた気の良さそうな商人風の男が話しかけてくる。
ラスティはきゅっとエルディアの影に隠れるようにくっついた。
「あはは。見ての通り人見知りでね。でもかわいいでしょ?」
「ああ、将来は別嬪さんになりそうだ」
豪快に笑う男がエルディアと世間話をしながら瓶詰めのアメをくれた。
「俺も人からの貰いもんなんだが、うちには息子しかいなくてな」
「そうなんだ?いいじゃん、息子」
「いやいや、腕白すぎるよ。こんな綺麗な瓶に入ったアメなんか興味もねぇさ」
だったら、かわいいお嬢ちゃんにあげた方がアメも喜ぶと言って、また豪快に笑った。
「良かったね。あんた誰が見ても完全に美少女だ」
エルディアがこっそりとラスティに耳打ちすると、ラスティはエルディアの腰に抱きついたまま顔を隠した。
きっとものすごく不本意な顔をしているのだろう。
「ははは!嬢ちゃんは本当に恥ずかしがり屋だな」
男は全くなにも疑うこともなく、恥ずかしがり屋の美少女に目元を緩めた。




