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「はいはい、分かったわよ。ラスちゃんは怖がりね」


「俺は普通だ!!」


エルディアが渋々ラスティの意見を受け入れたが、ラスティはその受け入れ方にまたカチンとくる。

いちいち腹の立つ女だ。


「あー、はいはい」


適当な返事に、再びラスティのこめかみに青筋が立った。だが、当のエルディアはそんなことなどどこ吹く風で、周りを見渡している。


街道の脇に流れる小川を挟んだ先に、ちょうど木々に隠された平地が覗き見えた。


「ラス、立てる?」


「……問題ない」


半ば意地になって立ち上がる。

エルディアは意外としっかり立ったラスティを見て、目を細めた。


「上出来。あそこに見える木の影で今日は休もう?」


エルディアに促されて視線をやると、少し離れた場所に少し広めの木陰が見えた。


「分かった」


短く返されたラスティの言葉を聞くと、エルディアはすぐに歩きだす。

ラスティは黙ってその後に続いた。


度々、揶揄ってくるが、むやみやたらと手を貸さないのはエルディアがラスティをちゃんと認めてるからだと、頭では分かっている。

それでも揶揄われるその都度、感情が振り回されていることに、ラスティは苦いものを噛んだような顔になった。


「なに?まだご機嫌斜めなの?」


「そんなんじゃねぇ」


エルディアの方は全く気にしていないのが余計に神経を逆撫でするのだ。

エルディアの態度を心地よく感じたり、不愉快に感じたりと忙しい。


(なんなんだ、いったい)


薄々気がついてはいるものの、絶対に認めたくない気持ちが強すぎて、ラスティはまた気持ちに蓋をする。

それが、これで何回目になるか考えるのも面倒だった。


エルディアは街道から少し外れたその場所に足を踏み入れ、木の陰にドラコニスを停めた。


「こっち。ここにしよう?」


エルディアの手招きに、ラスティは頭を振ってから軽く駆け寄った。


街道から離れすぎているわけでもなく、適度に木が繁っており、ほどよく周囲からは遮断されている。

一晩、夜営するにはちょうど良さそうな場所だった。


「悪くない」


ラスティが素直に評価するとエルディアが肩をすくめた。


「王族様にそんなこと分かる?」


「バカにしすぎだろう。騎士だぞ、俺は」


冗談めかしたエルディアの言葉に、敢えてバカにしたように返事をしてやった。

せめてもの意趣返しだ。


「あらまあ!ごめんなさいね!」


「分かればいいんだよ」


嫌みなラスティの態度に怯むことなく大袈裟に詫びるエルディアに、負けずに尊大に頷いた。

エルディアはカラカラと笑う。


「王宮の騎士団って夜営訓練もするの?」


「当たり前だろ。飾りじゃないんだから」


エルディアがドラコニスを背もたれにして腰を下ろしたので、ラスティもその隣に座った。

エルディアは興味津々に騎士団について訊ねてきたが、内容はよく考えるとかなり失礼だ。


「おまえ、前々から思ってたけど王侯貴族(おれたち)に対する評価が低すぎるだろ」


「えー、そんなことないでしょ。庶民の感想じゃん」


それが庶民全体の感想なら、国民に対する王族の向き合い方を考え直さないといけない気がする。

ラスティが眉間にしわを寄せるのを見てエルディアが手を伸ばした。


「うそうそ。知る機会がないから、面白おかしく噂するだけだよ」


額のしわを伸ばすように撫でた。


「それはそれで、良くないんだよ」


「あんた、真面目ねぇ」


「俺は普通だ!」


何度繰り返したか分からない台詞が、またラスティの口からこぼれ落ちた。

エルディアは目を細めて、そのまま頭を撫でた。


「褒めてんのよ、良いと思うよ?」


「撫でるな!!」


少女の姿が余計にそう思わせるのだろう。

まるで子猫が毛を逆立てるような様子のラスティに、エルディアは両手を上げて反省の意を示したが、喉がくつくつと鳴っている。


「笑ってんじゃねぇ!!」


「ごめんって」


ラスティの剣幕をひょいと躱しながらエルディアは荷物の中から食料の入った袋を引っ張り出した。


魔鉱エネルギーで暖められたドラコニスのエンジンに背中を預けているので、2人が寒さを感じることはない。

だが、暖かいものが食べたいと、エルディアはその辺の枝を見繕ってさっさと火をおこす。


「慣れてるな?」


「ん?親父が好きだからね、こういうの」


手慣れた様子に目を瞬くと、エルディアは手際よく袋の中の食材を並べて暖め始めた。


「あ、あたしたちのは夜営訓練じゃなくてキャンプね」


「分かってるよ、そのくらい!」


それでも新兵に見習わせたくなるような手際にラスティの顔がまた渋くなる。


(訓練内容、見直しが必要か?)


平民の運び屋に見劣りするようでは話にならないと、再び黙り込んだラスティの前に暖まったスープが差し出された。


「また、難しい顔してるよ?もうちょっと楽に生きたら?」


「誰のせいだ」


原因に笑われてムッとしたが、ラスティは差し出されたスープを受け取り口を付けた。


(うまいのがまた、腹立つな)


舌打ちをしそうな顔で、もう一口スープに口を付けた。


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