39
土日は3話公開です。
…おかしな夢を見た。
ラスティはそう思いながら瞼を上げる。そして、はたとエルディアの肩にもたれ掛かったままなことに気がついて飛び起きた。
「…っ!悪ぃ」
ラスティは慌てて体を起こしたが、エルディアは、何てことのないように笑った。
「遠慮しないで膝枕でも良かったのに」
「はぁ!?するわけないだろ!なに言ってんだ、おまえ!!」
エルディアは、この手の冗談に過剰に反応するラスティのことを完全に面白がっていた。けらけらと笑う姿に、眠りに落ちる前の気まずさなど全く感じさせない。
ラスティはそんなエルディアの態度に少しほっとする。
とはいえ、これはこれで面白くはない。
「腹立つな!」
「怒らない、怒らない」
ニヤニヤしながら、エルディアはラスティの目の前にビスケットを差し出した。
目を瞬かせて見上げると、エルディアもそれを口にしていた。
「お腹空いたでしょ?」
言われてみれば、朝に食べたきり、なにも口にしていない。
空腹を指摘されると途端に意識するもので、ラスティの腹が小さく鳴った。
「空いた…」
ありがたく受け取ると、もそもそと口にする。
非常食のようなビスケットだが、意外なことに味はそんなに悪くなかった。
「まあまあ美味しいでしょ?良いやつ買ったからね!」
どや顔で顎を上げるエルディアに思わず吹き出してしまう。
何だかんだで、この雑さが少しずつ居心地良く感じるようになっていた。
「本当に、まあまあだけどな」
どうせまた可愛げがないと言われるだろうとは思った。それでもなんとなく素直に美味しいと言いたくなくて、わざとそう言った。
案の定、エルディアは「かわいくなーい」と唇をとがらせた。
「あ、そうだ!」
だが、すぐにドラコニスにくくりつけていた荷物に手を伸ばすとなにやら引っ張り出してきた。
ラスティが首を傾げて見守っていると、その目の前にじゃーんと子ども服を広げて見せた。
「あんたの旅用のワンピースだよ」
「なんで、ワンピースにした!!」
エルディアがラスティに見せたのは、シンプルなベージュ色の子ども服だった。
「だって、変装はやっぱり必要でしょ?」
「ぐっ…!それはそうだが…っ!」
一応理屈は通っているので反対しにくいのが嫌なところだ。
「それに、あんたの着てる服ってテキラの孫のお洒落着なのよ」
「え、そうなのか?」
王族から見れば大したものではないかもしれないが、フリルの付いた可愛らしいワンピースは、平民にとってはれっきとしたお洒落着だ。
「王都のお買い物ならいいけど、これから先の旅にはちょっと違うのよね」
「そ、そうか…」
ラスティは自分の着ているワンピースを改めてまじまじと眺めてみた。
「幼い少女の一張羅をかなり汚してしまったな…」
真面目な顔でテキラの孫への損害賠償について考え始めたラスティにエルディアが吹き出した。
「いや、それは買い取ったから平気。返さないから!」
「そ、そうなのか?」
たまに顔を出す生真面目すぎるところがやっぱり面白い。
それなら良かったと、ラスティは本気で思っているようだ。
エルディアは、ラスティのそれが人の良さなのか、育ちの良さなのか迷ったあげく、両方だなと結論付けた。
「あんた、いい子よねぇ」
「また、バカにしてるだろ」
「してないって」
上目遣いで睨んでくるラスティに、エルディアは両手を上げて他意がないことを示す。
散々からかってきたせいで、全く信用されなかったが。
「まぁ、そんなわけだから朝市で買っておいたから、こっちに着替えてね?」
着替えのワンピースは、今着ているものよりは甘さもなく、飾り気もないものだ。
「分かったよ。ていうか、冷静に考えたらそっちの方がましだったわ…」
「理解が早くてなによりよ!」
ラスティの着替えも終わり、荷物を整えると、2人は顔を寄せてラスティの時計で時間を確認した。
「そろそろ明け方か…」
「良い時間じゃない?」
ラスティが東門の外に通じる扉に手を掛けた。
チラリと視線で指示されて、エルディアは肩をすくめて背を向ける。
小さなカタカタという音が繰り返され、がこんっという鈍い音がした。
もういいと言う声に振り向けば、ぽっかりと出口が開いている。
「行くぞ」
ラスティに短く告げられて、エルディアがその後に続く。
そして、エルディアとドラコニスが表に出た瞬間、ごんっと鈍い音と共に扉が閉まった。
「こわ!!!」
小さな悲鳴を漏らしたエルディアを明け方の三日月だけが見ていた。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。




