↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/117

38

土日は3話公開です。

「別に冷やかしじゃねぇけど、気になるじゃねぇか」


「なにが?」


「『マークⅡ』」


ラスティはその名前を聞かされた時から、実は疑問だったことをちょうど暇だしと、切り出した。

「Ⅱ」というからには「Ⅰ」があるのだろうか。


「ああ。『マークⅡ』はドラコニスの忘れ形見だから…」


「忘れ形見?」


思ったよりも深刻な話だったようだ。ラスティが気まずそうに視線を泳がせた。

エルディアは昔のことだからと静かに笑った。


「…そうね。あれは、私があんたくらいの歳のころよ」


「…どっちだ?」


現在なら10歳頃、元の姿なら19歳だ。

ラスティは少し迷いながら首を傾げた。


「19歳の方」


「3、4年前ってことか」


「そうね、そのくらいだったな」


そのころに出会った誰かの名前だろうか。

ラスティの気持ちがざわついた。


聞くんじゃなかった…。


そんな気持ちになって俯く。

エルディアはラスティの変化に気が付くこともなく、思い出をなぞるように目を閉じた。

それがなんだか距離を感じて余計に胸が苦しくなった。


「あたし、そのころは買ってもらったばっかりのドラコニスに夢中だったから…」


「…ん?」


「まあ、今より知識も技術もなかったし」


なんだか思っていたのと様子が違う話にラスティは違和感を感じて続きを待った。


エルディアは切ない目をしてドラコニス・マークⅡを見つめている。

その目は間違いなく熱を帯びていて、それはラスティが知る「恋」をする者の目にそっくりだった。


だが。


「無茶な改造をして、ちょっと調子に乗ってスピード出し過ぎちゃって」


「おい…」


「クラッシュしちゃったんだよね、ドラコニス…」


間違いない。

「Ⅰ」も魔導二輪だ。

ラスティはずるずると力を抜いて、地下水路の壁に背中を預けて座り込んだ。


「紛らわしい顔しやがって…」


「ちょっと、聞いてる?」


「聞いてるよ、この魔導二輪オタクが!!」


ラスティの胸の内のモヤモヤはエルディアには関係ない。

それは分かっていたが、ついやけくそ気味に怒鳴りつけてしまった。

急に噛みつかれてエルディアがムッとする。


「あんたが聞いてきたんでしょうが!」


「ああ、そうだよ!悪かったな!!」


なぜか急に不機嫌になったラスティにエルディアの機嫌も急降下する。

聞かれたことに答えただけなのに、一体何なのか。


「なんなの?子どもの癇癪に付き合えるほど暇じゃないんだけど!」


「子どもって言うな!!」


売り言葉に買い言葉とはこのことだろう。

そもそも原因そのものが本当にくだらないことなのは、ラスティも理解していた。

だというのに感情のコントロールができずに思わず強く言い返してしまう。


エルディアが深く息を吐いた。


「なんなの?急に不機嫌になられても分からないよ」


「…っ」


呆れたような目がだんだんと子どもをあやすようなものに変わっていくのを、ラスティはいたたまれない気持ちで見つめて、目をそらした。


「…悪かった」


「まあ、いいけどさぁ」


ラスティの言葉にエルディアが一歩引いたことによって、今度は羞恥心が襲ってくる。

同時に、ぐっと頭が冷えた。

恐ろしく子どもじみた態度が、今さらながら嫌になる。

ラスティの葛藤を察してか、はたまた別の理由からかエルディアは肩の力を抜くと、ラスティを引き寄せた。


「情緒不安定ってやつだね」


「……」


ラスティは黙ってエルディアに身を任せた。

自分でも理解できないことを他人に説明できるわけもない。


「心と体のバランスが悪いんだからストレスも溜まりやすいのよ、たぶん」


「…甘やかすなよ。今のは俺が悪かった」


「仕方ないよ。体が小さくなるなんて滅多に体験できることじゃないからね」


とりあえず引き寄せた頭をわしゃわしゃとまぜっかえして、エルディアはラスティの背中を宥めるように軽く叩く。


「やめろ…」


「疲れたんだよ、しょうがないって」


小さく抵抗してみたが、強く意地を張る気にもなれずそのままもたれ掛かった。

もう、疲れたことにしてしまおう。


「結構、歩いたしね。少し寝ちゃいなよ」


鼻歌のようにエルディアはカシスウェルの例の子守唄を歌いだした。

体力的には、本当に疲れていたのだろう。

ラスティの瞼が少しずつ重くなり、意識が遠のく。


瞼の裏に、麦わら帽子をかぶって6色の花束を持ったエルディアが笑っているのが見えた。


「なんだ、あれ」


ラスティは、夢の中にもかかわらず憎まれ口を叩いていた。



「王家の運び屋」メモ:

ドラコニス・マークⅠ(魔導二輪)

・エルディアの初代愛車。

・無茶な改造と運転のせいで早々に破壊された。

・部品の一部はマークⅡに引き継がれている。


ーーー


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。