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土日は3話公開です。
「母上は王家の避暑地で病気療養中なんだ」
「ご病気なの?」
「…いや」
なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったようで、エルディアは天井を見上げた。
好奇心は猫をも殺すって本当だ。
だが聞いてしまった手前、もはや引くに引けない。
ラスティは先ほどよりは気にした様子もなく、母親について語りだした。
兄に関わること以外が淡白すぎる気もするが、たぶんそこも触れてはいけないのだろう。
「父上の崩御は急だったけど、本当に病だったんだ」
「その闇が深そうな話し方をやめて。こっちは免疫ないんだから…」
エルディアが嫌そうな顔をしたが、ラスティは少し首を傾げただけだった。
多分、なにをエルディアが恐ろしいと思ったのか分かっていないだろう。
「もういいわ。続けて…」
「……?ああ」
育ちの違いは恐ろしいとエルディアは諦めたように息を吐いた。
エルディアに促されてラスティは話を続ける。
「でもタイミングよく義姉上が嫁いできたもんだから、母上はそう取らなかった」
「……病死じゃないって思ったってこと?」
「もともとヴァラン公爵が権力に執着していることを気にしていたからな」
それは、以前にも聞いた話だ。
ヴァランが自分の娘に産ませた孫に王位を継がせて権力を握るというあれだろう。
「…病死じゃないっていう、お母さんの勘は本当に間違っているの?」
「それは間違いない」
はっきりと言い切ったラスティから、それ以外の真実を語る気がないことが強く感じられて、エルディアはその件に関しての質問は諦めた。
「兄上は、王位継承には何の問題もなく、臣下たちは全員異議なく兄上に従っていることにする予定だ」
「…ごめん、もう分かんない」
エルディアは首を振って、理解を諦めた。
これ以上聞いても分からないし、知ってはいけないことを知ってしまいそうだ。
「あたしにも分かるくらい、なるべくシンプルにお願い」
エルディアが眉を下げて頼むと、ラスティは顎に手を当てて少し黙り込んだ。
しばらく歩きながら考え込んでいたが、ポンと手を打つ。
「つまり、母上は兄上に嫁入りした二コラのことを良く思っていないから、嫁姑間の仲がすこぶる悪いんだ。それで王城から離れて貰ってるってことだ」
「OK。分かった、それでいこう」
どうせ聞いても分からない。
きっとかなりの部分を端折っているだろうが、生きていることと王都にいないことだけ分かればエルディアの疑問は十分解決する。
エルディアの投げやりな様子を見てラスティは不思議そうな顔をした。
だが、どうやらラスティの回答に納得はしたようなので、それ以上は問い詰めなかった。
(ヴァランから公爵としての実権を奪い取って、嫡男に跡を継がせれば兄上にとっては都合がいい。そのためには母上には大人しくしていてもらう必要があるからな…)
母が公爵家をむやみに疑っては、不必要に警戒される。
そのため療養中として王都から引き離したのは兄の判断だが、それはラスティも納得している。
二コラに劣らずラスティも兄のために手段を選ばない男だった。
ただ、エルディアが面倒くさがったせいでそれを話す機会を失った。
ラスティは、自分のそういう部分をエルディアに知られずに済んだことになんとなく安堵した。
そんな自分に戸惑い、落ち着かない気持ちを誤魔化すように頭をかく。
「俺のことはもういいだろう」
「ん。なんか面倒だってことは分かったわ」
散々聞き出した挙句に面倒でまとめるとは、相変わらず無礼だ。
それでも、それで済ませる感性がエルディアだ。
「相変わらず雑だな」
「平民の手には負えない話だったわー」
カラカラと笑いながらドラコニスを押している。
東門の近くまでは、まだ少し遠い。
「おまえのとこはどうなんだよ?」
「うち?」
逆にラスティがエルディアを興味深そうに見上げた。
ラスティはエルディアの話も聞いてみたかった。
「特に今は、こんな状況だ。おまえの父親のところにも公爵側の人間が探りに行っているんじゃないのか」
「あー…。代替わりを伏せてるってことは親父があんたを運んでると思ってるはずだもんね」
エルディアの言葉にラスティは気まずそうに頷いた。
やはりまだ少し遠慮しているのだろう。
エルディアが笑顔でデコピンの構えをとると、慌てて額を押さえて首を振った。
「ちがう!ただ、普通にどうなってるか気になっただけだ!!」
その様子がおかしくてエルディアは思わず噴き出した。
笑われたことにムッとしたが、ラスティはそのことに触れずにエルディアに視線を向けた。
「大丈夫じゃない?図太いし、あれで結構機転も利くのよ」
「そうなのか…」
ベルクは碌に事情も知らされていない状態だ。
それにもかかわらず、躱せるはずだとエルディアは自信満々に答える。
そこまで信用しているなら問題ないだろうが…。
「大丈夫、大丈夫。のらりくらりと躱してるって」
エルディアの、父親を全く心配していない態度にラスティはまた困ったように笑った。
ここまで言うなら、心配するだけ無駄なのだろう。
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