34
土日は3話公開です。
「ねぇ、これってどこに向かってるの?」
前を歩くラスティにエルディアが問いかけた声が、地下水路に小さく響いた。
その反響音にエルディアは慌てて声を落とした。
「音は気にするな。外には漏れないし、この道は誰も通らない」
妙に確信めいた言い方で、ラスティがエルディアを見上げた。
「そうなの?…なら、いいけど」
物音を気にしなくて良いなら、それに越したことはない。
エルディアは力を抜いて、ドラコニスを押しながらもう一度ラスティを見た。
「で、どこに向かってるの?」
見慣れない場所に入ったせいで方向感覚がつかめない。
迷いなく歩いているラスティの様子から、目指す場所があるのだろうが、そこがどこなのか見当もつかないのだ。
「東門…」
「え、真逆じゃん!」
エルディアは指示された通り、王都の西寄りの職人街にドラコニスを走らせた。この地下水路の入り口もその路地裏だった。
「西に逃げたと思わせておけば、他の場所は手薄になるだろう?」
ただでさえ、ヴァラン公爵は私兵を使って捜索をしているのだ。
抱き込んだ公的な兵がいたとしても大捜索まで手を広げることは不可能だ。
限られた駒を使ってのことなら、手薄になる場所ができるのは当然だ。
「だから東門か…。意外と考えてるのねぇ」
「考えなしに突っ込むのはおまえだけで十分だ」
「はぁ?いつ、あたしがそんなことしたっていうのよ」
別にラスティも本気でエルディアが考えなしだと思っているわけではない。
つい、日頃遊ばれている鬱憤を晴らしたくなるだけだ。
エルディアもそれは分かっているので、本気で言い返しているわけでもない。
ただの軽口だ。
「体もちびっこの癖に、器もちっちゃーい!」
「黙れ。もとに戻ったらおまえよりでかいよ」
「またまた、見栄はって」
追われている悲壮感など微塵も感じさせずに、足音を地下水路に響かせていた。
「歩いて移動だと結構時間かかるよね…」
「そうだな。夜までに東門の出口に着けば良いだろう…。明け方に外に出る」
「妥当だね」
少し時間がかかるが、明け方なら尚更見つかりにくいだろう。
エルディアは少し黙って思案して、東街道にある町ゼラックを最初の目的地に定めた。
「あの胡散臭い占い師の示した高原の近くの町は、ジャンポネイルだったよね…」
歩きながら、ラスティに今後の予定を告げるためにそのまま言葉を続けた。
ラスティは頭のなかで地図を思い浮かべて小さく頷いた。
「ああ、そうだな」
「だったら、ゼラックを経由していくことになるね」
「東街道沿いの要衝の町だな…」
エルディアはラスティの答えに目を細めて答えた。
「ジャンポネイルは王都の東にある町だから、どのみち東に行くならそこを通るしかないけどね…」
表だってヴァランが多くの手駒を動かせないなら、次に手を打つなら各方面の要衝都市になるだろう。ゼラックにも手を回すはずだ。
つまり、それだけ危険が高まるということなのだが、それは仕方ない。
「行ってみて決めるしかないね」
「……」
黙り込んだラスティにエルディアが首をかしげた。
俯いたつむじを眺めて声をかける。
「どうしたの、疲れた?ドラコニスに乗る?」
「違う」
困ったような顔でラスティが顔を上げた。
眉間に寄ったしわが幼い顔に不釣り合いだった。
「ヴァランの動きが思ったより早い。…すまない」
「はぁ?」
言いたいことが分からず、エルディアも眉を寄せた。
危険に巻き込んで悪かったと言う話だろうか。
「この仕事の危険性は先に聞いてたんだし、その上で受けると判断したのはあたしだよ?」
「それはそうだが…」
「あんた、あたしがこの程度のことも想定出来ない無能だって言いたいの?」
エルディアの目がきつくなった。
この女は自分の能力を侮られることをひどく嫌う。
例えそれが心配から来るものでも関係ない。
その事を思い出して、ラスティはまた困ったような顔をした。
「侮らないで。このくらいは覚悟の上よ」
ドラコニスを止めてラスティを覗き込み、目線を合わせる。
「二度と言わないで」
「侮った訳じゃない…」
ラスティの目の奥に、隠しようの無い悔しさを見つけてエルディアは少し黙った。
ラスティの言葉の先を待つ。
「俺がこんな体でなければ、危険からも守ってやれるのに…」
「はぁぁ??」
待った挙げ句に出てきた言葉にエルディアは余計に不機嫌になった。
待つんじゃなかった。
「荷物に守ってもらわなくても結構よ。どんな運び屋なの、それ!?」
呆れたように両手を広げて首を振った。
「…荷物って言うなよ」
「『お荷物』って意味じゃないわよ?」
情けない声を出すラスティの額を指で弾いた。
痛くはないが、小さな衝撃にラスティが額を押さえる。
「あんたは儀式の影響でその体なの。それはその必要があるからでしょ?」
「それはそうだが…」
「だったらそんなこと気にしたって仕方ないでしょ。くだらないこと言わないで」
エルディアははっきりとした物言いで、ラスティに釘を刺す。
「この先、そんな理由で遠慮なんかしたらぶっ飛ばすからね!」
「ぶっ飛ばすって…」
「竜騎士になるまで、あんたとあたしは対等!変な引け目なんて感じられたらやりにくいったら無いわ!!」
あまりにも堂々とした宣言にラスティは目を丸くした。そしてその意味を咀嚼して小さく吹き出した。
王族の自分と「対等」と言い切る、妙な図太さがツボにはまる。
「本当に、おまえは無礼だな!」
変わらないエルディアの自信に満ちた態度に、ラスティの湿った気持ちはすっかり吹き飛ばされていった。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。




