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「すごいね、わざわざ作ったの?」
やたら手の込んだ秘密の小部屋だ。
興奮気味にエルディアがラスティに問いかけた。
「まさか。兄上とギュバンスが見つけたんだ」
「こんなの、よく見つけたわね」
エルディアは感心しながら、小部屋を覗き込んだ。クローゼットくらいの小さな空間だが部屋は部屋だ。
「外観と内装に妙な誤差があるって兄上が言い出して…」
「すごいわね、あんたのお兄さん」
たったそれだけの違和感で…。
国王陛下なのに、ラスティから聞かされる青年はとんでもなくやんちゃで行動力がある。
全体的に近所の悪ガキ感が半端ない。エルディアはつい笑ってしまった。
「昔から兄上はすごい人なんだよ」
「あんたのそれは、ただのブラコンじゃん」
ラスティが自慢げに語ることを、エルディアは軽口で返す。
そんな他愛もない会話の間もラスティは手を動かしていた。
ガコンと小部屋の隅に置かれたデスクの引き出しを開け、引き出しの底板をはずす。
「二重底!!」
徹底した細工にエルディアはまた腹を抱えた。
ラスティはそこからメモのような紙を引き出した。そして、ざっと目を通すと少し眉間にしわを寄せる。
その小さな異変に、エルディアはひょいとラスティの手元を覗き込んだ。
「……なにこれ?」
「暗号文だ…」
紙には奇妙な幾何学模様が綺麗に羅列していた。
文章のようでもあるが、見たこともない文字のようで内容がさっぱり読み取れない 。
「分かるの?」
エルディアが不安そうにラスティを見ると、ラスティは黙ってうなずいた。
「この暗号文字も兄上とギュバンスの力作だ。幼い頃、俺も無理矢理叩き込まれてる…」
「はは…。あんたのお兄さん、なにを目指してるの?」
どんどん正体不明になっていく国王陛下像にエルディアが生温い眼差しを向けた。
だが、ラスティはエルディアの感じている「おかしさ」には見当がつかなかったようで不思議そうに見つめ返してきた。
「兄上は生まれながらの王だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「思ってたより重度のブラコンだったのね、あんた」
まっすぐな目にエルディアは思わず目を丸くした。
ラスティはそんなエルディアの感想には構わず、手紙の内容を共有するようにヒラヒラと紙を振った。
「ヴァラン公爵が運び屋の存在にたどり着いたらしい」
「……早いね?」
「義姉上がヴァラン公爵に報告したそうだ」
ラスティの淡々とした口調から、想定内だったことが窺える。
それは昨夜聞いた話からも想像できることだった。エルディアは王妃の行動に対してまだ不満はあったが、ラスティ本人が気にしないというなら、仕方がない。
そこは口を出さないことにして、押し黙る。
「俺の足取りより『運び屋』の足取りを追って来る可能性が高いな…」
そう考えるとやはり偽名を使っていたのは悪くない選択だった。
「そう。じゃあ、あんまり王都でのんびりできないね」
エルディアは頭のなかで旅程を組み立てる。
ラスティは少しだけ考え込んで、エルディアに告げた。
「王都から出るのも検問に引っ掛かるかもしれない」
「手回しがいいのね」
敵対してなければ、ヴァラン公爵はエルディア好みの大変有能な人物だ。
エルディアは嫌そうに首を振った。
「利用されてない地下水路を使って街の外に出よう」
「そんなのあるの?」
「ある。その中にはヴァラン公爵にも知らされてない通路も…」
王族の秘密は底知れない。
いくつもの秘め事にエルディアはふと思った。
(ラスティのお兄さんが、なにかと秘密めいたものを作るのは血筋なのかもしれないわね)
なんだかその度に巻き込まれてるっぽいラスティを見て、少しだけ同情してしまった。
その微妙な表情をどう受け取ったのか、ラスティはエルディアを安心させるように付け加えた。
「まぁまぁ手間はかかるが、おまえのドラコニスも通れるよ」
「あたしのドラコニスに通れない道はないよ!」
「うそつけ!」
例え水路であっても問題ない。
そう胸を張るエルディアにラスティは笑った。
「っていうか、その地下水路って王族しか知らないとかいうやつなんじゃないの?」
暗に部外者のエルディアが知っても構わないのかと確認する。
ラスティは唇を薄く引き上げた。
「まずはどんな手を使ってでも竜騎士になることが優先だ」
かわいらしい少女のなりで、その目を爛々と輝かせた。
「多少のことは目をつぶってもらうさ」
「…あんたも、やっぱりやんちゃだわ」
王族の秘匿された情報など、くそ食らえと言わんばかりのラスティに、エルディアは面白そうに目を細めた。
「知られた道は塞げばいいだけだろう」
心外だとラスティが唇を尖らせた。
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