30
エルディアとラスティは早々に手荷物をまとめた。そしてすぐにチェックアウトを済ませ、目的の神殿に向かった。
宿場街から東へ伸びる大通りを、魔導二輪で進む。
整備された道はすこぶる走りやすく、エルディアもご機嫌だ。
エルディアの腰に抱きついているラスティが、その様子に苦笑した。
のんきに見えるが、エルディアは用心深さも持ち合わせた女だった。
その事をラスティは改めてチェックアウトの際に思い知らされた。
(誰だよ、バイオレット・ブルムンって…)
宿泊者名はちゃっかり偽名だった。
それにしても偽名の付け方が適当すぎる。
謎の占い師の偽名を、ほぼそのまま使っている雑さがエルディアらしかった。バイオレットはエルディアの紫がかった黒髪からの連想だろう。
「なに?」
「なんでもねぇ」
背中の気配に気づいたエルディアがラスティに声をかけた。
大したことでもないのでラスティは適当に受け流した。
エルディアは気にした風でもなく「ふぅん」と返事を返すと、ギアを入れて少しだけスピードを上げた。
キィッ。
しばらく走ったのち、少し高い音を立ててドラコニスが停車した。
到着した大神殿を見上げると、エルディアは息を吐いた。
「さすがに王都の神殿はでかいねぇ」
「本部だからな」
エルディアの後ろからラスティが飛び降りた。
幼い頃から王族教育の一環として、兄とよく通った場所だ。
勝手知ったるとばかりにエルディアに手招きをする。
「おまえのドラコニスはこっちに停めておけ」
一般の停車場から離れた、恐らく関係者用の停車場だった。
「良いの?」
「ソイツは派手すぎるんだよ。こっちの方がまだ目立たないだろ」
見れば関係者用の停車場には様々な種類の乗り物が停車している。
運び屋家業の魔導二輪はまだ一般的な乗り物とは言いがたいのは確かだ。
目立ちたくないと言う点では、この停車場は改造しまくりのエルディアの魔導二輪をうまく周りに馴染ませていた。
「なんであんな、ゴテゴテした金きらの馬車まであるのよ…」
「乗り物に対する個人の趣味に、おまえが口を出せると思うなよ?」
回りくどい嫌味にエルディアが顔をしかめる。
「あんなのと一緒にしないでよ」
「向こうもそう思ってるよ」
可愛げのないラスティの言葉にますますムッとしたが、ラスティがさっさと歩き始めたので慌てて後を追った。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「早くしろ」
ラスティは迷いもせずに当然のような顔で、神殿の東側に回り込み、明らかに関係者用の区画にしれっと入っていく。
「結構、よくやってる?」
「最近はそうでもない」
短い返事に、エルディアはこれはそうとうやってると直感して小さく吹き出した。
「やんちゃだね?」
「兄上がな」
ラスティは目的の小屋に着くと、迷いのない自然な動きでその扉を開いた。そしてエルディアを促してするりと滑り込むと、音も立てずにその扉を素早く閉める。
小さな針金1本で実に鮮やかだ。
エルディアは敢えてそこには触れずに、小屋の中をくるりと見回してみる。
普段は使用しない雑多な道具が仕舞い込まれているようで、大半は白い布に包まれていて中身はよく分からない。
「なにが置いてある小屋なの?」
「王族が神殿で行う儀式用の道具とか」
「あー…」
それは平時でもなかなか人は訪れないだろう。
定期的な管理はされているだろうが、うっかり入ってしまっては、いらぬ誤解を生みそうだ。
そういう意味では、定期点検の日程さえ知っていれば、見つかりにくい場所とも言える。
エルディアがなんとなくラスティたちがこの小屋に目を付けた理由に思い至って小さく笑った。
そんなことを考えているとラスティが、棚と棚の隙間から一枚床板をはずした。カコン…と小さな音を立てて外れた床板一枚分の細い隙間から小さなレバーが覗いている。
エルディアがワクワクしながら見守っていると、ラスティがそれを引いた。
がこん……っ
その瞬間、奥の方から鈍い音がした。
エルディアが視線を向けると壁の一部が小さく浮いていた。
「メチャクチャ凝ってるわね!!」
嬉しそうなエルディアに、ラスティが満足そうに胸を張った。
「だろう?」
ラスティが浮いた壁に手を掛けると、小さな納戸のような空間がそこにあった。
まさに秘密の小部屋だった。
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