28
王都の街宿とはいえ、王城の自室とは比べ物にならない造りの部屋だ。
当然のことながら、カーテンの遮光性など無いに等しい。
つい最近も同じようなことをした気がするが、ラスティは差し込む朝日の眩しさにごろりと寝返りを打った。
瞬間、ぽふっという弾力が頬にあたり、寝ぼけた頭で手を伸ばす。
ふに。
(…ふに?)
これもまた、前にも同じことがあったような気がする。
妙な感触にラスティの意識がぼんやりと覚醒した。
そして前回と全く同じように、自分の手の行方に気が付くと声にならない悲鳴を上げて飛び起きた。
「……ぅんっ」
ベッドに寝ているエルディアは、今回はまだ目を覚ましていない。
小さく呻き声をあげると、ラスティの動きを封じるようにぐっと腕を伸ばした。
そして、そのままラスティを抱きこむ。
「起きろぉぉぉ!!!!」
エルディアの、わりと大きめな胸に顔をうずめる羽目になったラスティは、慌ててエルディアを叩き起こす。
気持ちよく寝ていたエルディアは、ベシベシと叩かれて不機嫌そうに瞼を上げた。
眠そうな目が不満そうにラスティを眺めるが、頭をガシガシと掻きながら上半身を起こした。
「あんた、いつもいつも朝から騒がしいわね…」
あくびをしながら、気だるげにラスティを眺める。すると顔を赤くしたラスティが、エルディアの服を投げつけてきた。
「早く服を着ろ!!」
「人を全裸みたいに言わないでよ。ちゃんと着てるでしょ」
相変わらずショートパンツからは、すらりとした長い脚が惜しげもなく晒されている。
上着のシャツはサイズこそ合っているものの、袖もなく襟ぐりも広く開いていた。
要するに、とんでもなく薄着だ。
「そんなの着てるうちに入るか!!」
「うるさいなぁ。お坊ちゃんは繊細過ぎるわ」
面倒くさそうに、飛んできた服を手に取り着替え始めた。
あまりの遠慮のなさにラスティが慌てて背中を向ける。
「俺の目の前で着替えるなよ!!」
「部屋の外で着替えたら変態じゃん」
エルディアのごもっともな意見にラスティはがっくりと項垂れた。
「慣れるしかないのか。いや、そもそもこんなことに慣れていいのか…」
虚ろな目で自問自答し始めたラスティの肩に、さっさと着替えをすませたエルディアが手を置いた。
そっと振り返ると、エルディアが満面の笑顔で可愛らしいワンピースを広げている。
「はいはい。ラスちゃんも着替えましょうねー」
ひくりと頬をひきつらせたが、他に着るものもない。
がっくりとうなだれたまま、エルディアによってワンピースを着せられる。
そのまま簡単に身支度を整えれば、服装を変えただけで美少女の完成だ。
エルディアは満足そうにラスティを眺めた。
かわいい女の子を連れて屋台を回ると、おっさんたちのサービスが段違いに良いのだ。
「さ、朝ごはんの調達に行こうか」
「おまえがガサツすぎて、俺が美少女だったばっかりに…」
「なんか言った!?」
ぐちぐちと文句を言うラスティの頬をみょーんと引っ張ってから、エルディアはラスティの手を握った。
昨日もそうだったが、迷子防止らしい。
「そこまで子ども扱いしなくても平気だろう…」
「あんたが美少女だったばっかりに、別の意味でちょっと警戒が必要なのよ」
ふんと鼻を鳴らすと、握った手を離すことなく宿の外の屋台へ向かった。
あれこれと屋台を覗きながら、ラスティが興味を示した総菜を買い足していく。
「ところで、あんたの行きたいところって、ここから遠いの?」
その合間にエルディアはちょっとした雑談のようにラスティに声をかけた。
ざわざわと人気の多い場所で、周りに聞かれても困らない程度の内容のみの会話だ。
「ちょっと距離はあるかな。おまえのドラコニスならすぐだと思うけど」
「あたしのドラコニスはどこだってすぐよ」
「あー、へぇへぇ」
誇らしげに胸を張るエルディアを見上げるラスティは、適当な相槌でやり過ごす。
ドラコニスの話を掘り下げたらいけないということは確実に学んでいる。
ラスティは面倒な話には触れずに、質問の返事だけを返した。
「朝食のときに、場所を教える」
「なぁに、なんか感じ悪いー」
「ドラコニスの話に付き合う気はねぇよ」
エルディアはつまらなそうに唇を尖らせた。
「王家の運び屋」メモ:
ネヴェル・ド・クリュー(侯爵家の当主)
・カクテルは「ネバダ」
・ホワイト・ラム、ライムジュース、グレープフルーツジュース、砂糖、アンゴスチュラ・ビターズ
・先代からの忠臣。オルディスを補佐している
・カクテル言葉は「誓い」
※カクテルのレシピ・カクテル言葉には諸説あります。
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