↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/117

25

エルディアの明け透けな言い方に、ラスティは困ったように笑った。

確かにラスティには顔の分かる者たちだが、エルディアにとっては十把一絡げの官僚だ。


「それとさぁ」


物騒な話の中でも、エルディアはテーブルの食べ物に手を伸ばすのを止めない。本当によく食べる。


「ずっと気になってたんだけど、あんた、自分を狙ってくるヤツにも心当たりがあるのね?」


―――そして鋭い。


この手の話を隠すことを嫌う質なのは依頼を持ち込んだ時に感じていた。

恐らく、それは間違ってないだろう。

ラスティは一瞬迷ったが、すぐに取り繕うことを諦めた。


「公爵だ」


「公爵?」


「ヴァラン・デ・ホーセズ公爵。先王の妹の嫁ぎ先になるな」


短く答えるとエルディアは、モグモグと口を動かして宙を見る。


「先王の妹ってことは、あんたの叔母さん?」


ラスティは苦い顔をした。

結局は身内の王位継承権争いだ。


「そもそも公爵には王位継承権はない…」


「だよねぇ?」


「けど、兄上に嫁いだ公爵の娘が男子を産めば、公爵は外祖父としてそれと匹敵するほどの権力を得ることができる…」


兄のオルディスはホーゼス公爵家の令嬢ニコラを妻としている。


「わぁ…。面倒くさそうな相関図ね」


思わずエルディアが呟いた。

面倒くさいが、分かりやすい権力図だ。

孫を王座に据えて自分が実権を握りたいということか。


「現状、兄上が公爵家との関係を強化するのは仕方ないことだったんだ…」


それはそうだろう。

難しいことは分からないが、まずは力のある臣下を取り込んでおかなくては話にならない。


「叔母さんはどうしてるのよ?」


「ずいぶん前に、亡くなった…」


エルディアは気まずそうな顔をした。

ラスティはそれに気がつくと、笑って首を振った。


「もともと体の強くない方だったんだ」


「そう。でもなんか…ごめん」


叔母のことは昔の話だ。

いまは懐かしく思い出話に出るくらいの過去の話だ。ラスティはそのまま続けた。


「そこは別に気にしなくていい」


するりとエルディアの手に持っていたフルーツを横取りすると、自分の口に放り込んで目を細めた。


「どうしても気になるなら、これでチャラだ」


「ええー、それ1番でかいヤツじゃん」


エルディアはラスティの雑な気遣いに小さく吹き出した。エルディアの性格に合わせてくれているのだろう。それがくすぐったかった。


気を取り直して話を戻す。


「つまり、あんたが1番警戒してるのはお兄さんのことなんだね?」


やたら焦っているのは自分が殺されることではなく、その後に兄である現王が何らかの方法で殺害される可能性があるからだろう。国王を傀儡にするより孫の後ろ盾になる方が遥かにやり易そうだ。


「王サマの奥さんも、公爵の娘だっていうなら油断できないもんね」


父親に情報を漏らしたり、あるいは夫に毒を盛ったり。

実際にあり得るのか分からないけど、実行できる確率は高いような気がした。

納得したように頷くエルディアに、ラスティは何故かそこだけ歯切れ悪く口ごもった。


「いや…義姉上は…、どうだろう?」


「……どうって?」


そわそわとテーブルのパンに手を伸ばすと、落ち着きなくパンをむしり始めた。


「つまり…公爵の妻が俺の叔母上てことは、その娘はいとこってことになるんだが…」


「そうだね?」


顔見知りなのは想像つくが、どうにもはっきりしない。

エルディアが首をかしげているとラスティは、窓の外の月を見上げて困ったように呟いた。


「義姉上は兄上にベタ惚れだから…そこがどうなるかは…」


「……へぇ?」


それはまた、別の意味で複雑な相関図ができそうだ。エルディアは微妙な顔で曖昧な返事をした。


「でも、貴族のお嬢さんって実家の父親に逆らえるものなの?」


「…それは、人によるんじゃないか…と…思うが」


奥歯にものが挟まったような言い方だ。

もっとはっきり言えば、少なくともラスティは、そのいとこは自分達の味方だと思っているように見える。

エルディアは以前、新聞で見た王妃を思い出していた。


確かニコラという名前だった。


アイスティーのように澄んだブラウンの髪に凪いだ海のような碧眼。砂糖菓子のように甘い顔立ちだった気がする。


「すっごく大人しそうな人だなぁって印象しかないけど?」


「上っ面だけは砂糖菓子のような人だから…」


上っ面だけは。


……ずいぶんな評価だった。



「王家の運び屋」メモ:

ヴァラン・デ・ホーセズ(公爵家の当主)

・カクテルは「ブランデーホーセズネック」

・ブランデー、ジンジャーエール、レモン

・若き国王の失脚を狙っている

・カクテル言葉は「運命」


※カクテルのレシピ・カクテル言葉には諸説あります。


ーーー


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。