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ひと悶着あったものの、渋々とラスティが現状を受け入れたので、荷物を部屋に放り込む。
大きくもないベッド1つと小さなデスクだけのシンプルな部屋だ。
手荷物を放り込んだだけで手狭に感じるが、エルディアは気にした様子もない。
「宿なんて大体こんなもんよ、お坊ちゃま」
「おまえ、俺をバカにしてるだろう…」
渋い顔をしているラスティに、エルディアは小市民の現実を教えてやる。
すると、ラスティが嫌そうに顔をしかめた。
世間知らずと笑われたような気がしたのだ。
「世界が広がっていいじゃない」
否定もしないところが憎たらしい。
だが、事実として間違ってるわけでもないのがまた悔しい。
不貞腐れたような顔をするラスティを見て、またエルディアは笑った。
「これから、これから」
「うるせぇな…」
唇を尖らせるラスティを宥めるように適当に言葉を投げながら、荷物の中から小銭入れを取り出すと上着に突っ込む。
そして、くるりとラスティに向き直るとその手を繋いで部屋の外へ1歩踏み出した。
「おい…」
ラスティが困惑したように見上げる。
エルディアはしっかり手を握って離さない。
「社会勉強に連れて行ってあげるわ」
「いや、身を隠す意味、分かってるのか…?」
「宿の周辺の屋台ならちょっと覗くくらい構わないでしょ」
屋台で夕食を調達するという。
勿論、そんな経験のないラスティは困ったような顔をした。
時々見せる育ちの良い感性が、子どもの姿のラスティの可愛らしさを強調してしまっていることなど、気が付いていないだろう。
「大丈夫だって、結構おいしいよ?」
「いや、味を心配しているわけじゃ…」
「何事も経験、経験」
エルディアに引きずられるように宿の外に連れ出されたラスティは、道沿いに並ぶ屋台を不思議そうに眺めた。
宿場街にはこういった屋台があるとは聞いたことがあるが、実際に買い物をするのは初めてだ。
むき出しの状態で並べられているパンや肉、野菜。
エルディアが片っ端からめぼしいものを選んでいく。
日持ちしそうなものは明日以降の常備食にするつもりだろう。
一通り選び終えると、ラスティの隣に屈んで目線の高さを合わせた。
屋台の商品を1つずつ指さしていく。
「これは串焼き。豚肉で味も濃いやつ。こっちのパンは野菜と鶏肉が挟んであるのかな、味はたぶんあっさりめ。あの鍋はスープだね。簡易的なカップに入れて売ってくれるよ」
どれも簡単に食べられるようになっている。
肉の焼ける匂いや、鍋から漂うスープの匂いがあたりに漂っていて食欲を誘う。
「どう?食べてみたいもんはある?」
「あれは、なんだ?」
エルディアに聞かれて、ラスティは興味津々に屋台を巡っては、気になるものを確認して購入した。
両手いっぱいに食べ物を手にすると、エルディアが満足したように目を細めた。
「これだけあれば、おなかも膨れるってもんだね」
「買いすぎたか…?」
「どんだけ胃袋かわいいのよ?大丈夫、大丈夫」
うっかり、大量に購入してしまった食料を前にラスティは難しい顔をした。
だが、エルディアはカラカラと笑いながらラスティの心配を一蹴する。
食べきれなくても、エルディアが食べてやると伝えると、ラスティはムッとしたように口を尖らせた。
「問題ない。全部食べられる!」
「はいはい。あたしにも食べさせてちょうだいよ?」
妙なところで意地を張るので、ますますエルディアは面白そうに軽く肩をすくめた。
そのまま宿の部屋に戻る。
小さなテーブルに買った食べ物を並べると、あっという間にテーブルの上がいっぱいになる。
適当に手に取って口に放り込みながら、エルディアはベッドに腰を下ろした。
口を動かしながら、視線でラスティに椅子をすすめる。
ラスティは勧められるままに椅子に腰を下ろし、テーブルに並べられた串焼きの肉に手を伸ばして、恐る恐る口にした。
「…ん。うまいな!」
少し見開いた目が、ぱっと明るくなった。
「でしょー?」
「なんでおまえがそんなに偉そうなんだよ!」
得意気なエルディアについ突っかかってしまう。
楽しそうに笑うエルディアは気にした風でもない。
だが、ラスティはこれまで当たり前にできていた紳士としての行動が、エルディアには全く取れないことに、妙な苛立ちを感じていた。
(くそ。相手は女性だぞ!)
ラスティは肉を頬張ったまま、むぅと眉を寄せるのだった。
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