22
大小さまざまな宿屋が軒を連ね、宿泊客向けの雑貨や食料品を売っている屋台が並んでいる。
ドラコニスに乗ったまま、2人はゆっくりと屋台の前を進んだ。
むき出しで並べられるパンやスープの鍋、見たこともないような謎の仮面。
統一感がまるでない。
ラスティは物珍しそうにその様子を眺めた。
「お忍びで来たりしないの?」
「たまに街に出たりはしたが、ここまではなかなか降りてこられねぇな…」
「ふーん?」
ラスティの返事にエルディアは軽く返事をして少しだけ沈黙する。
ドラコニスの振動音が2人の間に響く。
やがて、エルディアは大きく1つ頷いた。
「それじゃ、思いっきり満喫は無理だけど、適当に楽しもうか」
「いや、身を隠すんじゃねぇのかよ」
ラスティが呆れたように半目になる。
エルディアは背中越しにラスティの呆れた空気を感じ取ったが、鼻で笑って一蹴した。
「無駄な戦闘はごめんだけど、人生を楽しむことに無駄なことなんてないのよ!」
「快楽主義者なだけじゃねぇか!」
それでもエルディアの気遣いを感じてラスティが思わず噴き出した。
そんなラスティを横目に、エルディアは適当な宿を選ぶ。そして駐車用の場所に愛車のドラコニスを預けた。
「先にチェックインして荷物を預けたら、買い物に行こう」
エルディアは宿の従業員に駐車料金の支払いをしながら、ドラコニスから飛び降りたラスティに声をかけた。
「分かった」
短い返事にエルディアは満足そうに頷いた。
基本的な方針に口を挟まないのも、ラスティの良いところだ。
気取ったお坊っちゃま、という先入観は随分前にエルディアの中から捨てられていた。
手続きを済ませて鍵を受け取ると、ラスティを促して部屋に向かう。
そこまでは大人しくエルディアに従っていたラスティだったが、エルディアが部屋の扉を開けた途端、態度が一変した。
そこが小さな1人部屋だと分かると、エルディアの服の裾を強く引く。
「何で、1人部屋にした!!!」
「小さな妹連れって言ったら、シングルでも良いってさ」
「口を挟まない」にも一応限度はあったらしく、ラスティがエルディアに詰め寄った。
「妹!?それにしたって、ベッドが1つしかないのはおかしいだろ!!」
「えー。王都の宿って高いんだもん」
稼ぎの悪い運び屋らしい、しょぼくれた発想にラスティが怒りをこらえて眉間を押さえる。
「変更してこい…っ」
「やだよ、面倒くさい…」
「面倒がるな!!」
全く気にした様子のないエルディアを怒鳴り付けるが、そのエルディアの手がラスティの口をグッと塞ぐ。
「目立つことしないの。小さい女の子を別部屋にするわけないでしょ」
耳元で低く囁かれる。
ラスティは不満そうな表情を取り繕いもせずに視線を上げた。
「だからって、ここはせめて2人部屋だろ…っ」
「空いてなかったんだもん」
もはや嘘だか本当だか分からない。
単に変更が面倒なだけではないかと疑いたくなるほど、エルディアの態度はあっけらかんとしていた。
「必要経費は王室から負担するが…?」
もともとその予定ではあったのだが、確かに伝えていなかった気がする。
そう思い至り、予算不足なら心配ないと伝えるつもりでラスティが口にした。
「え、そうなの?先に言ってよ!だったらドラコニスの改良用の部品を買いまくるわ!」
「宿代の話だ、バカ!」
全く見当違いな使い込みに走ろうとするエルディアに強く突っ込む。
それを聞きエルディアはつまらなそうな顔で、ラスティの背中を押して部屋に入れた。
「部屋は、もうこれで良いじゃない。わがまま言わないの」
完全に子ども扱いするエルディアの態度に、ラスティの眉間のしわが深くなる。
「俺は本来なら19だってこと、忘れるなよ?」
「あんたこそ、今はちびっ子なんだって事を自覚しなさいよ?」
2人の間にバチバチと不穏な空気が流れた。
それでも、先に折れたのはラスティだった。
出会う前から知り合いならともかく、出会った時には子どもの体だったのだ。
元の年齢の自分を想定して動けというのは、確かに無理がある。
「くそ…っ」
諦めたように毒づいたラスティの頭を、エルディアが無遠慮にかき混ぜた。
「今はしょうがないでしょ。諦めな」
「おまえはその雑な感性で、いつか絶対後悔するからな!」
悔し紛れの負け惜しみにエルディアがカラカラと笑った。
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