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「それじゃあ、完成したらエルディアさんにご連絡しますね?」
にこにこと屈託のない笑顔でテネシーは、エルディアとラスティを見送った。
エルディアが満面の笑顔で頷く。
「分かったよ。とびきりかわいいのにしてね?」
「勿論です!」
やる気に満ち溢れたテネシーがラスティにも微笑み掛けた。
「楽しみにしててね!」
「わぁい…」
返答に困りながらも、ラスティもとりあえず頷いた。
ひどく心が痛む…。
罪悪感で居たたまれないラスティに比べて、エルディアは楽しそうだ。気楽な様子で外に停めてあったドラコニスにまたがると、ラスティを手招きした。
「おまえ、よく心が痛まないな…」
「創作者にインスピレーションを与えてあげたんだから、あんたもそんなに気にすることないって」
例えラスティが身に着けることができなくても、素敵な帽子ならきっと他の客にも売れるはずだ。
「モデル料をぶん取ってない分、良心的じゃない」
「ただでモデルになったんだから、気にするなっていうのか?」
ラスティが正直者らしい潔癖さで眉をしかめるとエルディアは肩をすくめた。
「『創作意欲』っていう、ものづくりにとって1番価値のあるものを提供してあげたじゃない?」
全く悪びれないエルディアにラスティが呆れたように息を吐いた。
エルディアの図太さが羨ましい限りだ。
諦めたように頭を振ると、少し背伸びをしてシートに手を付いた。
そのまま腕の力を利用して体を持ち上げるとエルディアの後ろにまたがる。
そしてスカートを足に巻き付けて広がらないようにきちんと押さえ込み、エルディアの腰に手を回した。
「上出来!」
自分で乗り降りができるようになり、教えた通りの姿勢を取るラスティにエルディアの目が細くなった。
飲み込みの早いヤツは大歓迎だ。
「お2人は、この後はどうされるんですか?」
「一旦、王都の宿に泊まる予定だよ。少し、必要なものもあるから買い物もしたいかな?」
エルディアがグリップを握り、魔導二輪のエンジン音が響く。
テネシーは1歩、歩道に下がった。
「そうなんですね。王都は夜も楽しいですよ!是非楽しんでいってくださいね」
「ありがとう!そうさせてもらうよ」
テネシーは最初から最後まで何も聞かなかった。
不思議な占い師のことも、急に現れた2人組のことも。家に伝わる合言葉のことも。
きっとこの先も何も聞かない。
(でも、こういうことがあるなら、ちゃんと次の代にも言い聞かせなくてはね)
わけありの3者は、わけありのまま別れる。
テネシーは鋭く乾いたエンジン音を聞きながら、エルディアたちの背中を見送った。
そして、スカートを翻して軽やかに店の中へ戻る。
せっかく、かわいい帽子を思い付いたのだ。
忘れないうちに形に起こさないと。
「今日は良い日だわ!!」
帽子屋のテネシーにとって、必要なのはそれだけだった。
帽子屋を後にしたエルディアとラスティは、魔導二輪で王都の道を気持ちよく走った。
洗練された店が立ち並ぶ商業地区を抜けて宿屋が立ち並ぶ宿場街へ向かう。
ふと振り返ると、街を見下ろす王城が遠くに見えた。
「うまくごまかしてくれてるといいわね、ギュバンス」
「あの替え玉で誤魔化せるかどうかはともかく、ギュバンスなら上手くやってくれてるはずだ…」
エルディアの何気ない一言に、ラスティがしっかり反応した。
よほど信頼しているのだろう。迷いがない。
「そう。あんたがそう言うなら、そうなんだろうね」
エルディアはただ頷いた。
腰に回された腕に少しだけ力が入ったことに、意味などないだろう。
そういうことにしておいた。
「まあ、城下町はあんたにとっては安全な場所でもないわけだし、あんまりうろつかない方がいいかもね」
エルディアは気持ちを切り替えるように、これからのことを考える。
占い師のジーンが示した場所に向かうにしても買い出しは必要だ。
だが、王城に近いこの場所に長居をするのも得策ではない。
すぐにばれるとも思わないが、用心に越したことはないだろう。
宿屋を手配したらすぐに食料と水を買って、宿の外には出ないほうが良い。
だとすると、夕飯になりそうなものも必要か。
あれこれ考えているうちに商業街区と宿場街区の2つを繋ぐ橋に差し掛かる。
川辺の風が2人の頬を撫でた。
スピードを上げることもなく、エルディアは魔導二輪を流すように走らせる。
夕日を受けてキラキラ反射する水面に目を向けて、ラスティは眩しそうに目を細めた。
「美しいな…」
本来の口調なのだろう。
子供らしからぬ言い方にエルディアが苦笑する。
ラスティなりにずっと気を張っていたことが窺い知れた。
(お上品な言葉遣いの方が気が抜けてるなんて、面白い男ね)
密着したエルディアの体の動きで、笑ったことが分かったのだろう。
ラスティの気配がムッとした。
そこは子どもっぽい。
(19歳っていったらそんなもんか)
自分だって3つしか変わらないくせに、エルディアは大人ぶってそんなことを思った。
ベルクがいたら「どっちも子どもだ」と一蹴しただろう。
2人は会話らしい会話もないまま、王都の宿場街に入る。
同時に、エルディアはさらにスピードを落としドラコニスを徐行運転に切り替えた。
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