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「竜騎士の儀式が始まってるの…それはあんたも知ってるのよね?」
でなければ、ここにはいないだろう。
だからエルディアも確認する程度の軽さでジーンに尋ねた。
ジーンは微笑みを崩さずに頷く。
銀色の髪がさらりと揺れた。
「私は竜に会える場所を、候補者たちに伝える役目を持つ者だよ」
「御大層なお役目ね。目的地は先に伝えて貰わないと運ぶに運べないじゃない」
荷物の配達依頼で「荷物をお願いします、運ぶ先は他の人から聞いてください」なんて、聞いたことがない。
配達屋の常識の範囲でエルディアは不満げに眉を寄せた。
「竜の力など、簡単に人の手に渡ってしまっては色々と不都合だからね…」
配達する者、配達先を指示する者、その二つ役割の者の会合の場を用意する者。
こんなところだろうか。
「全てが揃わないと辿り着けないなんて、随分手が込んでいるのね」
「そうまでしてでも欲しいという者にしかチャンスは与えられないということだよ」
ラスティの眉間のしわが深くなる。
ジーンの言葉は明らかに明言を避けている部分がある。
「『チャンス』ということは、これだけでは確実ではないということだな?」
口を挟むラスティにジーンは微笑みの形で目を細めたまま頷いた。
本当に笑っているのか、真意の分からないような顔だった。
「そうだね。分かりやすく言うなら『審査会場に到着できる』だけだよ」
「審査…」
「竜騎士になるのは君だからね。最終的な判断は君の資質次第ということだよ」
ラスティは考え込むように顎に手を当てた。
そしてジーンを睨むように見上げる。
「審査基準は何だ?」
「それは行ってみてのお楽しみだろう」
先に伝えることはできないと首を振る。
エルディアは肩をすくめた。
「本当に面倒な儀式なのね」
竜気を受け入れるために体まで組み替えられるのに、正確な手順を踏まないと目的地にすら辿り着けない。
辿り着いたとしても、審査とやらを通過しないと竜騎士にはなれない。
「それだけ、人の手には余る巨大な力だということだ」
そして、この男は先ほどから物凄く怪しい。
聞いても答える気はないくせに、思わせぶりなしゃべり方をしてこちらの反応を楽しんでいるようだった。
「そうだ、もうすぐ満月だね?」
「…?」
唐突に話を変えられてエルディアとラスティは目を瞬いた。
朔月を迎えたばかりなので、満月は10日以上先の話だ。「もうすぐ」というには少し遠い。
不思議そうな顔をする二人を面白そうに眺めて、ジーンは首を振った。
「いや、何でもない」
「やめて。気になるでしょう!!」
エルディアが詰め寄ったが、ジーンはひょいと躱して机の上に一枚の地図を広げる。
ライヴィスキー王国の地図だった。
「この場所のどこかに最終審査の扉が開く…」
「随分広いけど…?」
地図に示された高原をみて、エルディアは渋面を作った。
ここのどこか、とは随分アバウトだ。
「近くの町で聞いてみるといい。隠された『神殿』について教えてくれるだろうさ」
「こんな場所に『神殿』など無いはずだが…?」
胡散臭そうにラスティがジーンを問い詰める。
ジーンはラスティの態度を気にすることなく、肩をすくめた。
「正確には『神殿』ではないからな。国への申告はされてないんだろう」
「じゃあ、なんで『神殿』なんて呼ばれているんだよ」
「この町の人間にとって神聖で不思議な場所だからだろう」
ラスティの剣呑な視線ものらりくらりと躱している。
いや、躱しているというよりは、やはり「気にしていない」ようだった。
「民間の伝承まで、王家では管理しないだろう?」
それはそうだ。
いちいちそんなことまで把握していたらきりがない。
ある程度歴史的な価値があるものを除き、民間のいわくつきの場所は管轄外だ。
「ここでその『神殿』とやらの場所を聞けば、竜に会えるのね?」
「審査に通れば、だがな。そこで会えるわけじゃない」
「めんどくさ…」
エルディアは嫌そうにため息をついたが、地図の場所を確認すると小さく頷いた。
ラスティの方へ視線を投げ、少しだけ首を傾げた。
「どうする?」
「行くしかないだろう。…ふざけやがって」
ラスティの目が鋭く空を睨みつけた。
小さな少女のような恰好をしていても、眼光の強さまでは隠せない。
琥珀色の目がほんの少し金色の輝きを帯びたようだった。
「絶対その審査とやらをクリアして、竜騎士になってやる」
「…あんた、本当に負けず嫌いね?」
ギラギラと闘志を燃やすラスティにエルディアは苦笑した。
「まあ、いいわ。そういうの嫌いじゃないよ」
ジーンは終始二人を面白そうに眺めていた。
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