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帽子屋のテネシーに案内されて通された部屋には銀髪の美青年がいた。


男は長い足を組んで椅子に腰かけており、悠然とした微笑を浮かべている。


エルディアは思わず口笛を吹く。


ベルクが美女を見かけた時の癖だが、それを指摘する者はここにはいない。

品のない行動にラスティは眉を寄せた。


「…酒場のおっさんかよ」


「いいじゃない。滅多にない美形よ?」


エルディアの言葉に、ラスティはますます不愉快そうな顔をする。


「てか、あんた酒場なんか行ったことあるの?」


ラスティの態度を鼻で笑って、エルディアが部屋に踏み込んだ。

渋々とラスティがそれに続き、最後にテネシーが入り、ジーンに話しかけた。


「ジーンにお客さんだよ。例の合言葉の人」


ジーンはテネシーに向かって頷くと、魅惑的なすみれ色の目を向ける。

それだけでテネシーは真っ赤になって下を向いてしまう。


「ありがとう、テネシー」


「あ、あの!私は店に戻るね!ごゆっくり!!」


ジーンの甘い声がテネシーに向けられると、今度は勢いよく顔を上げて、早口で捲し立てると猛スピードで店に戻っていった。


後に残されたジーンは不思議そうに目を瞬いた。


「わぁ、無自覚色男攻撃じゃん」


「だから別に色男じゃないだろ?」


テネシーを見送ったエルディアがこっそり笑う。ラスティは不機嫌な顔のままむっつりとしていた。


「なぁに?男の嫉妬は見苦しいよ」


「別に妬んでない。普通は普通だろ!」


ニマニマと笑うエルディアに、何が面白くないのか自分でも分からないままラスティは噛みついた。


「おお、怖い」


「ちっ……!」


全然悪びれずに肩をすくめるエルディアに舌打ちをして、ラスティは部屋の中心に座る男に目を向けた。


流れるような銀の髪は月の光を集めたように煌めき、すみれ色の瞳はアメジストより美しい。


(ただの優男じゃないか!)


何がそんなに気に入らないのか、自分の感情を突き詰めることなく、ラスティは苦い顔をした。


正しくは何が気に入らないのかを突き詰めること自体が、面白くない答えを見つけてしまいそうだから目を逸しているのだが、無意識にラスティは気が付かないふりをしていた。


エルディアにそんなラスティの心の内など分かるはずもなく、けらけらとラスティを揶揄ったあと、笑いながらジーンに話しかけた。


「はーい、色男。あの歌で会えたってことはあんたも関係者?」


気軽なエルディアの言葉にジーンが面白そうに目を細めた。


「関係者といえば関係だね?」


「ちっ…。どっちなんだよ」


相変わらずラスティは面白くなさそうな顔で刺々しい言葉をジーンに投げつけた。

そんなラスティの頭を上から押さえつけてエルディアがジーンに笑い掛けた。


「うちのクソガキが失礼でごめんね?」


「いや。彼が竜騎士を目指す、王家の血筋の子だね?」


やはり詳しい…。

エルディアは油断なくジーンを観察した。


穏やかな笑顔からは感情を読み取れず、座っているのに隙がない。何より、発する気配がひどく重厚だった。


(貴族…ではなさそうだけど、覇気が普通じゃない。何者なの?)


エルディアは背中を伝う汗を感じて、自分が緊張していることに気が付いた。


目の前の男が、こちらに敵意を持っていないことは分かる。しかし、そもそもエルディアたちのことを自分と同等の生き物として見ていないような気がするのだ。


(強いて言うなら、道端で犬を見かけた愛犬家みたいな感じ…?)


エルディアの独特な感性が目の前の色男の異質さを感じ取り、ラスティを隠すように一歩前に出た。

ラスティは自分の前に立つエルディアに少しだけ不服そうな顔をしたが、黙って下がる。


「竜に会いたいのだろう?」


警戒するエルディアとラスティなど、歯牙にもかけずジーンはゆっくりと目を細めた。


「そうなの。あんた、知ってるなら教えてくれない?」


エルディアは体を固くしたまま、ジーンの目を見つめた。少しだけ感情が見えてきた。


すみれ色の目に浮かび始めたのは「好奇心」…。


(遊ばれてる?)


ジーンの思惑が分からないので、警戒はするが、「好意的な好奇心」は大体、親切だ。

警戒しすぎて機嫌を損ねるのもいい判断とは言えないだろう。


(この先のことは、こいつから聞き出すしかないもんね…)


さまざまな打算の上で、エルディアは肩の力を抜いた。

ラスティがエルディアの変化に気が付き、見上げてきた。


「こいつから情報を貰えないと、ここから先は行き詰まりだわ。これ以上の警戒は意味がない」


「…おまえの判断がそれなら、任せる」


エルディアはラスティの言葉にニヤリと口角を上げた。


「あんたのそういうところ、すごくいいわ」


「言ってろ」


ラスティがつまらなそうに鼻を鳴らした。


「王家の運び屋」メモ:

ジーン・ブルムン (占い師)

・カクテルは「ブルー・ムーン」

・ドライ・ジン、バイオレットリキュール、レモンジュース

・名前は偽名。

・カクテル言葉は「奇跡の予感」


※カクテルのレシピ・カクテル言葉には諸説あります。


ーーー


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。


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