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土日は3話公開です。
テネシー・クラールは王都で代々帽子屋を営む家の娘に生まれた。
幼い頃から帽子作りが好きだったので、家業を継ぐことを疑問に感じたことはなかった。
大好きな帽子に囲まれて暮らせるなんて幸せなことだ。
さて、そんな彼女が「黄金色の麦」を引き継ぐことになったときに先代から教えられた決まりは、正直に言えば意味が分からないという一言に尽きた。
幾つかは確かに商売の上で必須項目だった。
だが、幾つかは何を言っているのか全然理解できないものだった。
そのうちの1つ。
ジーン・ブルムンと名乗る占い師が訪ねてきたら、占い用の一室を貸し出さねばならない。
「意味が分からないと思ってたけど、まさか私の代で本当にいらっしゃるとはね…」
店の2階にある小さな部屋を貸し出したのは、1週間ほど前だった。
銀髪の目を見張るような美青年が突然やってきたのだ。
「こんにちは、お嬢さん。私はジーン・ブルムン。古の約束に従い、どうか部屋を貸して欲しい」
あまりの美貌にポカンとしたが、名乗りを聞いて「この人が…」と思った。
不安がないと言えば嘘になる。
それでも家業を継ぐに当たって、言いつけを守ることは絶対条件になっていた。それに悪い人でもなさそうだと、長年培った人を見る目を信じて部屋を貸した。
「…それにしても、もう1週間くらい経つけど、占いに来る客もいないし…これで食べていけるのかなぁ?」
占い師とは、特殊な合言葉の人間しか通さない約束をしていた。
その合言葉はテネシーが小さい頃から聞かされていたものと同じだった。
それも彼を信じた理由の1つだ。
「とはいえ、あんな面倒な合言葉を使う人がいるかしらね」
興味本位に首をかしげた。
だが、どうせ今日だって何も変わらないだろうと勝手に結論付けた。
そして、手にした帽子の最終的な仕上げに取りかかる。
カラン…。
その時、入り口のベルが鳴った。
「こんにちは」
入ってきたのはすらりとした長身の女だった。
黒紫の短い髪に夕焼け色の目が力強く光っている。
そして金髪の可愛らしい少女が、女の後ろにぴったりとくっついている。
恥ずかしいのかこちらに顔を見せようとしない様子に、テネシーは微笑んだ。
「いらっしゃいませ。なにかお探しですか?」
「この子におめかしをさせたいの」
手にした作りかけの帽子をハンガーに戻し、立ち上がる。
隠れているが、かなりの美少女だと分かる。腕の振るいがいがありそうだ。
女の言葉にテネシーが頷くと、女はさらに注文を重ねた。
「金の麦で編んだ帽子がいいわ」
テネシーが目を瞬いた。
「…お花は飾ります?」
「うん。赤、黄、青、紫、橙、緑がいいな。用意できる?」
「それだと飾りきれませんよ?」
注意深く女と少女を観察した。
帽子の種類も、花の色も順番も完璧だ。
「そうなの?じゃあ黄色と橙は諦めるよ。花瓶にでも飾っておいて?」
完璧に符合している。
テネシーはゆっくりと頷くと、2人を占い師のいる部屋へ案内した。
「伝わったみたい」
「だな?」
後ろから付いてくる奇妙な2人組が囁きあっているのが、耳に入った。
だが、正直なところ、テネシーが分かることなど何もない。
ただ例の占い師とこの2人との待ち合わせ場所がこの店なのだと、理解しただけだった。
この帽子屋の最後の家訓は「この事について質問をしてはならない」ことなのだ。
それを条件に初代はこの場所に店を構えたというし、今もどこからか援助してくれている謎の大富豪もその関係者だろう。
商売人に必要なことは色々あるが、深入りしないことも、確かに大事な素養なのだ。
「こちらの部屋にいらっしゃいますよ」
親切なテネシーが案内すると、2人は不思議そうな顔でお互いを見つめあって首をかしげた。
「え、誰が?」
「知るかよ…」
(……あら?違うのかしら?)
テネシーも釣られて首をかしげようとしたとき、部屋の中から男の声がした。囁くような甘い響きで、占い師ジーンの声だと分かる。
「テネシー、入ってもらってくれ」
どうやら、間違いではなかったようだ。
ほっと息を吐くと、テネシーは安心して扉を開けた。
「王家の運び屋」メモ:
テネシー・クラール(帽子屋)
・カクテルは「テネシー・クーラー」
・ウイスキー、ペパーミントリキュール、レモンジュース、シュガーシロップ
・カクテル言葉は「あの日の約束」
※カクテルのレシピ・カクテル言葉には諸説あります。
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