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土日は3話公開です。

「で、これからだけど」


朝食のパンに噛り付きながら、エルディアはラスティに話しかけた。

パンの上から目玉焼きが落ちそうになっているのを指で押さえると、その指先をぺろりと舐める。

とても褒められた行儀ではない。

ラスティは、パンで目玉焼きを器用に挟んで、口に運ぶとむぐむぐと口を動かしながらエルディアを見た。


「昨日も言った通り、例の帽子屋に行くよ」


「…分かった」


口の中のものがなくなってから、口を開くあたりに育ちの良さが出ている。

エルディアはそんなラスティに王都の地図を広げてみせた。

指でなぞるように帽子屋の位置を示す。


「帽子屋『黄金色の麦(アウラータ)』。この店がうちの依頼状と同じ図案をブランドマークに使っている店よ」


「…運び屋(おまえたち)の関係者じゃないんだよな?」


ラスティは昨日エルディアたちから聞いた話を思い返していた。

「同じ図案のマークを使った店」が、たまたま王都にあるということを知っていた、という様子だった。

そんな偶然があるのだろうか。


「そうだね、知り合いではない。でも、偶然でもない」


エルディアは軽く頷く。

その間も手は忙しく動き、テーブルのフルーツを自分の皿に移している。


「うちには『帽子を買うなら絶対に『黄金色の麦(アウラータ)』で買うこと』っていう決まりもあるの」


また、決まり事だ。

平時には大したことがなさ過ぎて聞き流す程度だが、こうして儀式が始まると1つ1つが繋がるようにできているのだろう。

ラスティは黙って続きを待った。


「うちは帽子なんてわざわざ作りに行くことなんてないのに、おかしいよね?」


「…そうだな」


そんな洒落た感性の血筋だとは思えない。

ベルクとエルディアしか知らないが。


ラスティの失礼な感想を敏感に感じ取り、エルディアがその綺麗な額に向けて指先を弾いた。

痛くはないが、ピシっという衝撃にラスティが顔をしかめる。

つくづく不敬な女だ。


「おまえなぁ…」


「で、おかしいと思ったから、店の近くまで行ってみたのよ」


額に手を当て不満そうなラスティを無視して、エルディアが続けた。


「そしたら、看板に例のマークがあったってわけ」


ラスティは額に手を当てたまま、エルディアの顔を見た。エルディアは最後のフルーツを口に放り込むと、席を立つ。


「これはあたしの勘だけど、向こうは向こうで、こっちの知らない情報を持ってるんじゃないかな?」


お互いがなにも知らなくても、それぞれのピースを繋げればたどり着く仕組み。

それは王家と運び屋の関係ともよく似ていた。可能性の1つとして、あながち的外れとも思えない。


「…そうだな」


ラスティがエルディアの後に続いて席を立った。

そうであれば尚更、早くその帽子屋に行きたい。


出発の支度のために2階に戻る。ふと、その前にラスティは台所で新聞を開いているテキラに頭を下げた。


「おばさん、ごちそうさま。おいしかったよ」


「!!!」


途端にテキラは感激して、新聞を置いてラスティを抱き締める。そしてベルクとエルディアにたっぷり嫌みを言った。


「聞いたかい!ベルク、エルディア!!こういう感謝の気持ちを言えるのが大事なんだよ!!」


「んんっ!お、今日は天気が良さそうだな」


エルディアは首をすくめ、ベルクはわざとらしく咳払いをするとそそくさと天気を確認しにテラスに逃げる。


ラスティはこの強い味方を手放すつもりはない。この程度の愛想を振りまくだけで良いなら安いものだ。

ぎゅうぎゅうと締め付けられるのは苦しいが、テキラの見えないところでエルディアに舌を出す。


「あんた、本当にかわいくないわね!」


「おばさん、あのオバサンこわーい」


目を潤ませる様子は、少女の変装をさせられることに抵抗していた男のすることとは到底思えない。


昨日、散々おちょくられた恨みを晴らすためには手段を選ばない。


ラスティ・ベルノ・ライヴィスキ。


―――意外と根に持つ男だった。


テキラはそんなラスティの思惑に気が付くこともなく、いそいそとお手製クッキーを包み始めた。


「お出掛けするなら、おやつに持っておいき」


「わぁ!ありがとう!!」


完璧な美少女を演じる王弟にエルディアはこめかみを引きつらせて、唸った。


「テキラ、チョロすぎるよ!!」


口の悪さからは想像もつかないが、テキラは料理上手だ。

そしてテキラの手作りクッキーはエルディアの好物だ。


惜しげもなく大量に渡されるそれを、エルディアは恨めしそうに見つめるのだった。


「王家の運び屋」メモ:

テキラおばさんのクッキー(お菓子)

・ス〇ラおばさんのクッキーみたいな名前だけど、アイスボックスクッキー。

・プレーンとココアとチェッカーボードタイプの3種類あるよ。


ーーー


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。


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