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本日から新章です。よろしくお願いします。
エルディアとラスティが完全に外に出ると、巨大な門は陽炎のように揺れてふっと消えた。
ラスティが黙って空を見上げる。
「……? どうしたの?」
「……月がない」
ラスティの答えにエルディアも空を見上げた。
星々が輝く夜空に、確かに月明かりだけが足りなかった。
「あれ? でも、さっき……」
ジーンの背中越しには半月が浮かんでいた。そうエルディアが言い切る前にラスティは呟く。
「ああ、ジーンの背後には月が見えていた……門の中は月が出る夜だったってことだ」
「ん? つまりどういうこと?」
なんだかよく分からない話にエルディアが混乱する。
ラスティは自分の出した答えに、うんざりした顔になった。
「ようするに、テストが終わったから時間をショートカットさせられたってことだよ」
「ええ、なにそれ?」
ラスティの中では答えが出たらしいが、エルディアにはまだよく分からない。
もう一度ラスティに問いかける。
自分だけで納得しないでほしい。
「俺たちがあの門をくぐったのは20日頃だったろ? 出発の前の晩、月はだいたい半分くらい欠けていた」
「そうだったっけ? あんたよく見てるわね?」
「そうだったんだよ。あれだけ思わせぶりに月にこだわってたんだから見ておけよ」
エルディアは出発前の夜空を思い出そうとしたが、まったく気にしてなかったのでさっぱり思い出せない。見てなかったのが悪いといえば悪いかもしれないが、ラスティに馬鹿にされたように言われてムッとする。
「センシティブになってるあんたのお世話に忙しかったのよ」
「うそつけ、おまえが落ち着かなかっただけだろ」
「なぁに? 図体がでかくなったら態度まででかくなったの?」
エルディアの言葉に今度はラスティがカチンときた。売り言葉に買い言葉だ。
「は? 態度のでかさはおまえに負けるけど?」
「はぁぁ? あんた、本当に可愛くないわね!」
しばらく睨みあっていたが、これでは埒が明かない。2人は同時に息を吐いた。
つまらない言い争いで時間を無駄にしたくない。
「分かったわ、この話はいったん置いておきましょ」
「しょうがねぇな……話を戻すぞ」
一時休戦。
ラスティは気持ちを切り替えるように頭を振った。
好きな女と話しているのになんでこんなに殺伐とするのか。
「さっきのジーンの背後に浮かぶ月はまだ半月だったろ? だから門の内側では出発した日からそんなに時間は経ってなかったはずだ」
説明するのもバカバカしいが、おそらく外れていないだろう推論だ。
「時間が進むなんてことある?」
「あるんだろうよ。多分、1週間くらい飛ばされたんだよ。あいつらの方がもう待つ必要がねぇから」
「え……じゃあ、もしかして今がもう晦の夜ってこと!?」
エルディアはもう一度空を見上げた。
やはりそこに月はない。
「な、新月だろ? 月は隠れちまってる……」
エルディアは呆然とラスティを見つめた。
「見るべきものは見たから、早く来いだなんて、なんて短気でわがままなの……」
「これから俺たちが相手にするのは、そういう連中だってことだよ」
ジーンもそうだが、悪意や敵意でそうしているわけではない。むしろ、どちらかというと好意的といえる。
それでも、自分たちとは考え方も感じ方もまるで違う生き物なのだ。
「気を付けようもねぇけど、気に留めておく必要はあるだろうな……」
「ある意味、自然そのものね……雷だし」
未知との遭遇。
まさにその言葉通りの対面になるだろう。
どちらともなくお互いを窺って、視線が絡みあった。
「本当に喧嘩してる場合じゃないわね」
「同感だ……」
2人ともずっと見ないようにしていた現実にようやく向き合うことを決めた。
――門を出たときからずっとそこにあった可愛らしい黄色い屋根の家。
ジャンポネイルにあったジーンの家と、そこはかとなく似ている造りだった。
玄関前には色とりどりの花を咲かせた鉢が並んでいる。
そして、その扉には銀色のプレートがぶら下がっていた。
『古竜ミーディルの家』
「……誰よ、ミーディルって」
「書いてあるだろ、古竜だよ」
晦に現れる扉の予想外のファンシーさにエルディアとラスティは戸惑いを隠せなかった。
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