121
チリン……
一応、呼び鈴を鳴らしてみる。
しばらく待ってみたが反応はない。
「そりゃ、そうだよね。竜が『はーい』とか出てきたら困るわ」
「そもそも、なんでこんな家なんだ」
エルディアはそのままドアノブに手を掛ける。一応、ベルを鳴らしたのだから不法侵入にはならないはずだ。
人間社会では完全にアウトだが。
「お邪魔しまーす」
きぃ……
鍵はかかっておらず、すんなりと扉が開いた。
エルディアの手の甲がほんのりと発光しているので生体認証のような仕組みで開いたのかもしれない。
「なんなんだろうね?」
「熱くねぇの?」
「全然。なんなら温かくもないわ。光ってるだけ」
エルディアはラスティに、グローブをしたままでも分かる程度にはうっすら光っている手の甲を見せる。その目線が自分より高いことに改めて気がついた。
「あんたに見下ろされるの、なんか変な感じ」
「慣れろよ。こっちの方が本来の体格差なんだから」
「……ちっ」
思わず舌打ちしてしまったのは、つい、うっかりだ。今まで見下ろしていたのに、見上げなくてはいけなくなったのが悔しかったわけでは、断じてない。
「残念だったな? もう、見下ろすことは永遠に無理だな」
「ほんとに、かわいくないわね! 永遠かどうかは分からないでしょ!?」
「分かるだろ、諦めろ」
ラスティはいつも通りに振る舞っているのに、いちいち腹が立つのは小さな子どもではなくなったからだろうか。
「見た目って本当に大事!!」
「そのままずっと悔しがってろ」
長い間溜め込んでいたものを発散できてラスティは機嫌がいい。それも含めて、エルディアは面白くないこと、この上ない。
「あんたが元に戻ったって、所詮は19歳よ、年下のガキんちょなことに変わりはないわ!」
「だからどうした。言っとくけど、おまえに年上の落ち着きとか威厳とか全然ないからな?」
「まー! 年上を敬えないなんて、なんてクソガキなの!?」
飽きもせず、言い争いながら玄関から続く廊下を進む。
ばんっ!!!!
一般的な家ならリビングに続くだろうドアを勢いのまま開けた――その先は……。
「ど、洞窟!?」
「無茶苦茶だな、この家は」
喧しく口げんかをしていた2人が、思わず唖然とする。
ドアの先は、全く生活感のない洞窟に繋がっていた。その奥をよく見ると大きな岩が見える。
――いや、2人は岩だと思ったのだが。
巨大な塊がゆっくりと動いた。
それは微睡みから目覚めた古竜、ミーディルだった。
気だるげに首を持ち上げたミーディルは、侵入してきたエルディアとラスティを眺めると、金色の目を細めて喉を鳴らした。
「ほう。おまえたちがジーンの言っていた、今回の挑戦者だな?」
音の大きさは桁違いだが、グルグルという音は猫のようだ。
エルディアは音の方に気を取られ返事が遅れる。その少しの差でラスティがエルディアより1歩前に出て先に答えた。
「ラスティ・ベルノ・ライヴィスキです。私が、あなたに加護を求めて参りました」
凛とした声で竜の前に立ち、丁寧に一礼した。
「そうか。おまえが旧き友、サゼラックの血を引く者か……では、おまえがバークの流れの者だな?」
「はじめまして? あんたが古竜ミーディルなのね」
竜の視線がエルディアに移った。
エルディアはラスティの肩を押して、竜の前に進み出た。
「おい……」
「あんたはあたしを巻き込みたくないんだろうけど、ここまできたらそれはもう無理よ」
エルディアの言葉にラスティが顔をしかめた。否定したいが、おそらくエルディアの方が正しい。
「くくく……。変わらず仲の良いことよ」
ミーディルは2人の様子を眺めて、再び首を下ろした。どうやら目線を下げてエルディアとラスティをよく見ようとしているようだ。
「それはそれで、見えにくくない?」
「ふむ。見えにくい」
竜の困った様子にエルディアの口元が緩んだ。なんだかそれが可愛らしく見えたのだ。
エルディアは少し下がって竜から離れると、ラスティを手招きした。
「このくらいの距離がある方が話しやすいと思うわよ?」
「おお、そのようだな」
ラスティは呼ばれるままエルディアの隣に立ったが、難しい顔のままだ。
エルディアがその顔を見上げて、唇を引き上げた。
ラスティの眉がピクリと動いた。
エルディアのその顔はいやというほど知っている。
「なぁに、また、妬いてるの?」
「妬くか、バカ。おまえの警戒心のなさに呆れてるんだよ」
案の定、エルディアがにやにやと揶揄ってきたのでラスティは鼻で笑ってやった。
思った通りの反応じゃなかったことが不満なのか、エルディアは「かわいくない!」と、また文句を付けてきたが、知ったこっちゃない。
「ばーか」
ラスティは、とどめとばかりにもう一言バカにしておいた。
洞窟内にまた、グルグルという音が響き渡った。




