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「……顔はやめろ、顔は!」
思いきり顔を押しのけられたラスティは、エルディアの手を払いのけて体勢を持ち直した。その上で、目の前で顔を赤くするエルディアを確認するとにんまりとした。
(……良い傾向だな。ちゃんと意識してる)
ラスティが自分の気持ちを自覚してからというもの、エルディアの無自覚な距離感に悩まされた時間がどれ程あったことか。
少しは動揺するといい。
落ち着かないエルディアの気持ちは、少し前のラスティの気持ちと同じものに違いない。
エルディアを好きなことと、その反面振り回されたことは別の話だ。
しっかりやり返しておかないと割に合わない。
「……やはり、私は席をはずそうか?」
「いいよ。進めろって言ったろ?」
ジーンが気遣うようにラスティに声をかける。
ラスティはあっさりと首を振った。
気遣うように見えたところで、気を遣うなんて芸当ができるわけもない。
ジーンは面白がっているだけだろう。遊ばれる趣味はない。
「そうかい? じゃあ、進めるけど、君もそれでいいね?」
「いいから、さっさと進めて!!」
「理不尽だな。話を中断させているのは君たちの方だからね?」
なんでもかんでも自分のせいにされてはたまらないと、ジーンは2人に釘を刺した。
そして話を進める。
「試練に失敗しても、死ぬことはないがこの儀式についての記憶は失われる……ただし」
「ただし?」
まだ続きがあるのかとエルディアの眉が寄った。
ジーンはエルディアを見つめた。
「タイミングとしては王家がカシスウェルに支払いを終えた後だ」
「ん?」
「運び屋が仕事を終えた場合、つまり候補者をこの場に配達できた場合は王家からの配達料の支払いをもって記憶を消すことにしているよ?」
なんだか、どうでもいいルールにエルディアはまたあんぐりと口を開けた。
聞き捨てならない不可思議な話と、やたら現実的な話を交互に織り交ぜるのをやめてほしい。
「ああ。だからカシスウェルには『時々』多額の金額が振り込まれるのか……」
ラスティは真顔で手をポンと打った。
エルディアは話をよく飲み込めずにラスティに顔を向けて首をかしげる。
「ライアンが最後の竜騎士だったとしたら、300年前で入金履歴は途絶えるはずだろう?」
「ああ!」
「カシスウェルには、今のおまえたちが確認できる範囲で『時々』多額の入金があったと言っていたから、おかしいと思ったんだよ」
まあ、真実が分かったからといってどうということもないが。
それでも気になってはいたのでラスティはすっきりとした顔をしていた。
「律儀というか、なんというか……あれねぇ……?」
「それについてはライアンに付き添ったカシスウェルの運び屋が『絶対そうしろ』というから、そうしたんだ。私のせいではないよ」
何と表現していいのか分からなかったエルディアにジーンが言い訳のように言葉を重ねた。
その口ぶりが気になってエルディアはつい口をはさんだ。
「それじゃあ、他のルールにも何か口を出してたりするわけ?」
「そもそも、試練だなんだという仕組みは、そのときに君の先祖が言い出したんだ」
「……なにしてくれてんのよ、あたしの先祖」
まさかの元凶にエルディアはげっそりとした顔をする。
いわくありげな儀式の手順が、自分の先祖の企画・立案だったとは。
「私はそれでよかったと思っているよ?」
「そうなのか?」
「ああ。竜は細かいことを気にしないから、気が向けば望むものすべてに力を与えてしまう」
ジーンは困った知り合いの話のつもりだろうが、ラスティとエルディアはその意味を考えて黙り込んだ。
「……受け取り手に素質があろうと、なかろうと、か?」
「そうだね」
「受け取り手が、悪人でも善人でもってこと?」
「その通りだよ」
ライアンに付き添ったカシスウェルの運び屋はそれを危険だと思ったのだろう。
エルディアだってそう思う。
力を望む者に素質が無ければ力に焼かれて死ぬだろうし、運よく力を手にした者の人柄によってはどんな風に悪用されるか分かったものではない。
「そのためのふるい、なのね……」
「まあ、単にあの落雷の後始末がかなり面倒だったってだけなんだが」
「感心してるんだから、混ぜっ返して残念な話に戻すのやめてよ……」
ジーンの中では全て等しい基準になっているのだろう。
事の重さと軽さを同列に扱う態度に、エルディアは深くため息をついた。




