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土日は3話公開です。
「いいや。闘技場にたどり着いたというだけなら、君たちの前にも何人かいたね?」
「いたのか?」
初耳だった。
エルディアとラスティは顔を見合わせる。そしてラスティが慎重に切り出した。
「竜騎士ライアンしか、記録には残っていないが?」
「だろうね。竜騎士になれたのはライアンが一番最後だ」
「それ以外に、試練に失敗した候補者たちも存在してるってことなのね?」
ジーンの言うことが指し示すことはそういうことだろう。
エルディアの言葉をあっさりとジーンは認めた。
「だいたいは、この6体の魔物との戦闘でリタイアする」
「そんな記録、残ってないみたいだけど?」
300年前のライアンの後に、少なくとも何人かはこの場所までたどり着いている。
ジーンの言葉を信じるなら、エルディアやラスティたちの家にまったく痕跡がないのは不自然だった。
「それはそうだろう。試練に失敗したら記憶を消すからね」
「……は?」
重要なルールがいちいち後から明かされるのは、ジーンや竜の価値観が人と著しく異なっていることの現れに違いない。
これは異種族間の認識の違いだ。そう言い聞かせてエルディアは怒りをこらえた。
「記憶を消すってどういうことなの?」
「試練に失敗したんだから、なかったことになるのは当然だろう?」
その言葉から、ジーンが人に竜の力を与えることに積極的でないことはよく理解できた。
だからと言って聞き流せる内容ではない。
「ああ。でもカシスウェルの運び屋たちはみんな優秀だったから、竜騎士を目指す者を運ぶという仕事は、毎回きっちりこなしていたよ?」
「そんなこと、聞いてないわよ」
「……? 下手に途中経過を残されても困るから根こそぎなかったことにしているんだが?」
ジーンはなにがエルディアの気に障ったのか分からずにきょとんとしている。
その顔にエルディアががっくりと肩を落とした。
(だめだ。分かり合える気がしない……)
その横からラスティが口を出した。
「この闘技場で俺が負けたら、俺たちも記憶を消されてたってことか?」
「ああ、そういうことになるね?」
ジーンは当たり前のことを聞かれたから、答えただけだ。
答える際にも一切の気負いはないし、もちろん罪悪感などかけらも感じてない。
だが、聞かされたエルディアはぞっと背筋を凍らせた。
この旅の記憶がなくなるということは、ラスティと過ごした時間のすべてを失うということだ。
(そんなの、ありえない……)
すべてをなかったことにされると想像しただけで、全身から血の気が引き、体が震えた。
「落ち着け。俺は負けてないし、記憶も消されてない……」
青い顔で俯くエルディアに気がついたラスティがその肩を引き寄せた。
ラスティの手があやすようにエルディアの背中を撫でる。
エルディアは恐る恐るラスティを見上げた。
「そ、そうだね。あんたは負けなかったし、記憶は消されてない……」
エルディアは、その胸に頭を預けて長い息を吐いた。
そのまま、ゆっくりと思考を整理する。
(共有した時間を誰にも奪われたくないなんて……それを考えただけでこの有り様だなんて……)
それはもう――。
もう一度、吐き出した息は身体中の熱を集めたように熱かった。
(こんなときに、こんなことに気がつくなんて最悪……)
運び屋としてのプライドと、自覚してしまった気持ちの折り合いの付け方が分からず、エルディアは途方に暮れる。
「落ち着いたか?」
ラスティの低い声が、今までと違う意味を持ち始めた。
エルディアはきゅっと目を閉じる。そして、息を整えて再びその目を開いた。
「落ち着いた。もう、大丈夫だよ」
「本当に?」
エルディアはラスティの肩を軽く押して、少しだけ距離を取る。
だが、わずかな変化を敏感に感じ取ったラスティが、すぐに距離を詰めて、エルディアの目を覗き込んだ。
「……っ!!」
自覚した直後のイケメンの顔面力の強さに対して、残念ながらエルディアは実に無力だった。
「ひぃぃ!! ごめん、もうちょっと待って!!!!」
「……ぐっ!!」
片手で思い切りラスティの顔を押し返して、空いてる方の手で自分の顔を覆った。
確認しなくても分かる。
きっと、真っ赤だ。
(ほんとに、最悪!!!)




