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土日は3話公開です。
「これが回復薬なのね!?」
「ああ。竜気の満ちた場所で取れた薬草は、この空間でのみ、その特別な力を発揮して……」
「詳しい話は今はいらないの!!」
親切に説明してやろうとしたのに遮られて、ジーンは不服そうな顔をした。
だが、エルディアの勢いに押されて、渋々と結論だけ伝えてやる。
「ああ。それが回復薬だよ」
その言葉に被せるようにエルディアはジーンに詰め寄った。
「この薬は、この壁を通り抜けられるの!?」
「無機物は通り抜けられるよ」
返事を聞くや否や、エルディアはその小瓶をラスティに向かって投げつけた。
飛んできた小瓶を片手で受け取ると、ラスティがその緑の液体をじっと見つめる。
「聞いたわね? それを飲んで!!」
「……すげぇ、苦いって言ってなかったか?」
「死ぬほど苦いけど、死なないから飲め!!!!」
折角、青年の姿に戻って男前なのに子どもじみた事を言うラスティをエルディアは叱りつける。叩きつけられたダメージは結構あるはずなのに、マイペースな態度にエルディアの苛立ちは頂点に達する。
「死んだら絶対許さないから!! さっさと片付けて終わらせて!!」
「分かったよ、怒鳴るな」
そう言ってラスティはその緑の液体をあおった。
薬草独特の……というよりは何を混ぜたらこうなるんだという形容しがたい苦みが口に残り、思わず舌を出す。
「苦っ……」
だが、体への効果はてき面だった。
鈍い痛みが引いていく。それどころか体中に力が満ちていくのを感じる。
違和感を覚えて手のひらを見つめると、バチバチと小さなプラズマが発生していた。
(剣じゃない……俺の体から発生しているのか?)
「ほう。竜剣の電流を操るだけではなく、竜剣に僅かに残されている竜の力を自らに引き入れたのか」
「なに? なにを言ってるの!? それ、危なくないの!?」
ジーンが感心したように呟いた。
エルディアは意味が分からずジーンに掴みかかる。
「落ち着きなさい。君は落ち着きがないな」
「落ち着けるか!!」
詳しい説明は不要と言ったり、話せと言ったりなかなかに理不尽だ。
ジーンはエルディアにも興味を覚えその顔をじっと見つめた。
「黙ってないで、何とか言いなさいよ!!」
「君は……ただ、面食いというわけではないんだな?」
「……は?」
何を言われたのか分からずにエルディアは間の抜けた顔をする。
ジーンはその顔を更によく見ようと、ぐっと近づいた。
「なにやってんだ、おまえ!! 近すぎるだろ、離れろ!!」
その瞬間、闘技場で魔物を相手にしているはずのラスティから怒声が飛んできた。
回復薬で力を得たとたんに、ずいぶん余裕が出たようだ。
「君はちゃんと試練を頑張りなさい」
「すぐ、片付ける!! それ以上近づくな!!」
まるで犬の縄張りの主張のようだ。
潔癖な見た目からは想像できないほど独占欲が強い。
ジーンはラスティをそう評すると再びエルディアに意識を戻した。
「私は人間にとっては大変魅力的な容姿をしていると思うが?」
「……? まぁ、色男だね?」
エルディアは唐突に変えられた話の趣旨が分からず、思わずジーンの問いかけに素直に答えてしまう。
「それでも、君は私と彼とでは違う反応を見せるだろう? なぜだい?」
「……は? はぁぁぁぁ!? いま、それ関係ないでしょう!!」
あまりに場違いな質問にエルディアが狼狽えた。
そもそも、そんなことを考えたこともないのだから答えようもない。
その反応にジーンはますます興味を惹かれたようだった。
どぉぉぉ!!!!
轟音と雷をまき散らし、闘技場の中央で4体目が霧散した。
「……それ以上近づくなと、言ってるだろう?」
ジーンに向けられたラスティの低い声。
そしてそれ以上に、重く鋭い殺気が放たれている。
周囲の温度すら低く下げるような冷たい声に、ジーンではなくエルディアが固まった。
肝心のジーンは肩をすくめて、ラスティの目を見つめた。
金色の目に浮かぶ確かな怒り。
だが、力は正確に魔物だけを打ち抜いていた。
「君は君で、少し気が短いな。怒りに任せて力を暴発させるタイプではないことは分かったがね」
「あと、2体だ。余計なことをせずに大人しく待ってろ」
カラリと落ちた紫の宝玉を摘まみ上げ、それをジーンに掲げてみせた。
ジーンはラスティからの殺気も怒りもまるで気にした様子を見せずに、その宝玉に目を向けて静かに唇を引き上げた。
「では、早くしなさい。私がまた彼女に近づいてしまうよ?」
「すぐ終わる……、それ以上、近づくなよ」
エルディアを置き去りにしたまま、ラスティとジーンの会話は打ち切られた。
ラスティが己の力で生み出したプラズマを竜剣に流し込む。
竜剣がこれまで以上に大きく火花を散らした。
「すばらしい……あれだけ使いこなす者はなかなかいないだろうな」
「ねぇ、あれ、危なくないの……」
ラスティは放電する剣を大きく振り上げ、一気に振り下ろした。
まるで雷鳴のような地響きとともに、巨大なエネルギーが残る2体にまとめて放たれる。
ごぉぉぉぉぉんっ……!!
剣先から放たれた稲妻が2体を同時に貫き、焼け焦げた匂いとともに魔物は黒い霧となって掻き消えた。
「あれだけ強ければ危ないこともないと思うが?」
「分からないじゃない、そんなこと!」
「君は本当に過保護だな」
しみじみとつぶやいたジーンの言葉に被せるようにカラリと音が響いた。
霧散した2体の魔物から落ちた緑と橙の2つの宝玉がラスティの足元に転がっていく。
ラスティはそれを拾い上げ、ゆっくりとジーンに見せた。
「これで、6体だ……」
これがジーンにとって想定内の早さなのか。
エルディアには判断することはできなかった。




