11 幕間①
―――王城にて。
「そう。ラスは無事に『運び屋』に合流できたんだね?」
執務室の椅子に悠然と腰を下ろた若き国王オルディス・ペルノ・ライヴィスキは、ギュバンスの報告を聞き終えるとゆっくり頷いた。
「どうだった、『運び屋』は?」
「現状では何とも言えないわ」
肩をすくめるギュバンスに、オルディスはその瑠璃色の目を細めた。
その目の奥にはどこか楽しむような気配すらある。
「ラスを預けてきたのに?」
ギュバンスが用心深く慎重な男であることは幼馴染でもある自分が一番よく知っている。
その男が任せると決めたのだから、その運び屋を気に入ったのだろう。
そう当たりをつけて、問いかけるとギュバンスは苦笑した。
「ラスを預けるのは問題ないと思うくらいには『仕事』は信用できると思うわ」
「『仕事』は?ほかにもあるから、おまえは1人で帰ってきたんだろう?」
そうでなければ、この過保護な男がラスティ1人を置いてくるわけがない。
「そんな言い方、やめてよ。私が口うるさいお姑みたいじゃない」
嫌そうに顔をしかめるギュバンスに、オルディスは目を細めたまま先を促した。
感じたこともすべて話せという静かな命令だった。
「口に出して言ってよ」
「わざわざ必要ないことは口にしないよ?」
穏やかそうに見えて、何を考えているのか分からない。
晴れた海のように穏やかな雰囲気に気を許すと、突然の嵐のような大波に飲み込まれる。
それがオルディスだった。
「怖いわぁ」
「いいから、続けて」
無駄口を許さない圧を乗せて、ギュバンスを見つめる。
「運び屋は代替わりをするんですって。だから私たちが訪ねたときは調べた男ではなく、若い女に替わっていたわ」
「若い…女か…」
デスクに肘をつき、両手を目の前で組む。
考え込むように視線を伏せていたが、すぐに顔を上げた。
「それでも、問題ないと判断したんだね?」
「ええ。むしろラスにはそっちの女の方が合ってる気がしたの」
直感で物事を判断するのは珍しいが、その勘も侮れないということをオルディスは経験で知っていた。
総合的に判断して、ギュバンスの報告を問題なしとする。
「竜騎士…本当に実在する話だったとはね」
その呟きがギュバンスに向けられたものではないことを知っているので、ギュバンスは黙ったまま控えている。
「ラスが竜騎士の話を持ち出したときは、適当に話をでっちあげておけばいいと思ったんだけどね…」
御伽噺のような話に信憑性を持たせて、それらしく竜の加護があると謳うだけで良かった。
オルディスは王家に伝わる竜騎士の伝承を信じていなかったからだ。
弟が本気でそれを目指すと知っても、特に止めなかったのは信じていなかったからなのだが…。
「まさか、体が小さくなるなんてね…」
「あなたにも想定外だったというわけね?」
計算高い国王にしては、何とも締まらない話だ。
けれども、信憑性のない御伽噺だったのだからそれも仕方ないだろう。
「大丈夫よ。ラスは必ず竜騎士になると言っていたわ」
オルディスはあれこれ言葉を濁しているが、結局はラスティを危険なことに巻き込んだことを後悔しているのだ。
それを正しく読み取って、ギュバンスはラスティからの言葉をオルディスに伝えた。
「…そう」
ラスティを狙って水面下での動きが激しくなったことは報告されている。
無事に帰ってくることを祈るしかない状況に、若き王は苦いため息を吐いた。
(ラスが変装のために女装してるって話は内緒にするって約束したけど、どうしようかしら…)
一方のギュバンスは、仕えるべき国王に報告できない案件を抱えてしまったことを秘かに苦悩していた。
温度の違うため息が執務室に落ちた。
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